@ はじめに……今さら英語の勉強なんて……  
     
A 40歳にして、転ぶ。スキーで大けが……  
     
B 全く役に立たなかった「外人講師による英会話教室」  
     
C 1000時間ヒヤリングマラソンは真っ赤なウソ  
     
D 飛躍的に伸びた、今はなき英会話学校「バイリンガル」  
     
E その後の私の学校遍歴……ベルリッツ、ノバ……  
     
F プロへの果てしなき道……インタースクール……  
     
G 海外投資の思わぬプレゼント  
     
H 熟年の英語上達の秘訣  
     
I おわりに……英語は世界を開く!……  
     
     
     
@ はじめに…今さら英語の勉強なんて
   今さら英語の勉強なんて……。熟年世代にとって今から英語を勉強するのは大変である。日本で生活していれば英語は必要ない。海外旅行だって添乗員付き「至れり尽くせり」の旅行は沢山あり、英語が全くダメでも海外旅行は十分楽しめる。では、なぜ今さら英語の勉強なのか?

 「英語は第二の人生を開く」と、私は思う。熟年の方々にとっては、今さら英語のプロになる必要はない。しかし、もし、自分が英語で世界中の人々とコミュニケーションが取れたら、第二の人生はより豊かなものになるのでは?また、英語を勉強する過程で、脳に刺激が与えられアルツハイマーの予防にもなる。英会話学校に通いはじめれば新しい友人もでき人間関係の輪が広まる。さらに、個人で海外旅行に挑戦すればハラハラ、ドキドキの刺激的体験ができる。

 英会話のためにいきなり海外留学をする必要はない。日本でしっかり英語を勉強し時々海外に出る。好きな外国に個人で出かければ海外旅行が英会話の実践道場になる。日頃の勉強の成果が問われる。私のお勧めは「外国航路の豪華客船に一人で乗り込み」「映画タイタニックのジャックのように紳士淑女の前で、堂々とディナーを楽しむ」。つまり、程度の差こそあれ、私の著書『……安くて豪華に旅する方法』第2章の2「夢の豪華客船クルーズの旅」をあなたにも体験して頂きたいのである。きっと世界が広がると思う。
 
 しかし、それを実現するにはどうしてもある程度の英語力が必要となる。では、何をどうするのか?残念ながら魔法のようなうまい方法はない。ひたすら努力するしかない。しかし、その努力が徒労に終わらないためにも、ここでは私の英語学習「挫折の道のり」を紹介する。そして、長くかかったが、少しだけ「熟年の英語上達の秘訣」も分かってきた。退職をひかえた熟年の方々が、私の成功と失敗の体験を参考に英語学習をスタートされんことを願う。
 
     
A 40歳にして、転ぶ。スキーで大けが……
   男の30代は元気一杯。仕事で疲れても一晩寝ればすぐ回復する。週末は遊びだ。私は主にスポーツを楽しみ、テニス、登山、スキーそしてトライアスロンへと過激になっていった。40歳を迎えたある冬の日、私は、スキー場近くにあるホテルの一室で日記に書いた。「これから黄金の40代が始まる」と。そして、40歳の誕生日の日、私は朝一番でゲレンデトップに立った。「よし、行くぞ!」勢いよくアイスバーンの中を滑り下り、そして、転倒した。

 左膝の内側靱帯断絶。一歩も歩けなくなった私は緊急入院した。絶好調から絶不調へ、一瞬のうちに転げ落ちてしまったのである。「長い人生、いい時も、悪い時もある。悪い時はじっと我慢するしかない。いつかまたいい時がくるよ」私は日頃からよく言っていた母の言葉を思い出した。そして、入院する前、考えた。これから1年間スポーツはできない。入院予定は1ヶ月近くもある。スポーツができないなら頭を鍛えればいい。それなら、若い時からやってみたかった英会話の勉強をしてみようか?

 私は入院する時、個室を予約し、病室に簡易机とラジカセ・英会話のテキストを持ち込んだ。そして、入院と同時に私の英会話学習が始まったのである。私は、スキーで大けがをして英会話の勉強を始めた。そして、その後の人生が英語と共に大きく変わっていく。その激変ぶりに本人もびっくりである。

 私は一生で一度でいいから海外旅行をしてみたかった。マイホームのローンが終わり貯金も少しできてきた1994年の夏休み、思い切って家族で海外旅行に出かけた。スキーでけがをした2年後である。行き先は、カナダの「ナイアガラの滝とカナディアンロッキー」。JTB主催、添乗員付き8日間の旅である。

 42才になって初めての海外旅行。訪れた場所すべてが素晴らしく、中でもバンクーバーの街の美しさに感動した。高層ビルが整然と建ち並ぶダウンタウンにはセンスの良いショップやレストランが軒を連ねている。中心街から少し西に歩けば、美しいビーチ「イングリッシュベイ」があり海に沈む夕日が眺められる。海岸を少し北に歩けば広大な緑の森「スタンレーパーク」が広がり、リスや野鳥の楽園である。ダウンタウンの中でさえ芝生の歩道が広く取られ、大きな街路樹が風に揺れている。夏でもさわやかな風だ。将来バンクーバーに住みたい。私はバンクーバーに恋をしてしまった。

 私にとって一生で一度の夢だった海外旅行、実はその翌年から3年連続、私はバンクーバーを訪れた。バンクーバーマラソン(ただしハーフ)に参加したのだ。膝のけがの克服と英会話の実践を兼ねて……。以後、ニュージーランド、オーストラリア、ヨーロッパ諸国、アジア諸国と海外旅行は続く。そして、「早期退職して海外ロングステイをする」という老後の夢ができてきた。カナダ旅行は私の運命を変えたのである。

  カナダ旅行の後、私は英会話の必要性を痛感し、勢い込んで英会話学校に飛び込んで行った。しかし、挫折の連続。長く苦しい英会話学習が続く。では次に、私の英会話「悪戦苦闘物語」を始めよう。
 
     
B 全く役に立たなかった「外人講師による英会話教室」
   私が最初に入った英会話学校が、NHK文化センター主催「外人講師による英会話教室(中級クラス)」である。料金が安かったし、何しろ外人講師だ。90分の授業中すべて英語。やってやろうじゃないか。私はやる気満々で乗り込んだ。

 平日の午前10時から授業が始まった。1クラス10名ほど。生徒はすべて中高年女性。何となくみんな上品で教養がありそうだ。いい雰囲気である。
「ミスター舟橋、プリーズ」と、講師から指名がかかる。1人3分ほど1週間の出来事を英語でスピーチするのである。その後、講師が質問する。全員のスピーチが終わったらテキストに入る。私はスピーチ原稿を英作文し、それを必死で覚えて教室に臨んだ。スピーチは満点だ。しかし、講師からの質問が理解できない。理解できてもすぐ英語でしゃべれない。針のむしろの苦しい数分間を耐える。冷や汗タラタラ……。

 他の女性達は普通に英語でしゃべっている。これには驚いた。中でも比較的若くてきれいな婦人(いかにも上品な、いいとこの若奥様)が流暢な英語でしゃべっているではないか。「かっこいいな……」私はその人に憧れてしまった。「よし、僕だって。いつかはぺらぺらになって、デートに誘おうか……」。1年間、私はこの教室に通った。しかし、成果ははっきり言ってゼロ。いつまでたっても女性達の英会話のレベルに達しない。あほらしくなって辞めた。憧れの人をデイトに誘わずに……。

 次に向かったのはYWCA主催の英会話教室。ここもパターンは同じ「外人講師による英会話(中級クラス)」であった。やはり聞き取りができない。講師推薦の英会話用重要単語・熟語集を暗記しようと努力してみたが、つまらなくて長続きしない。憧れの人もおらず、結局半年くらいで辞めてしまった。
 
     
C 1000時間ヒヤリングマラソンは真っ赤なウソ
   私の難点は英語の聞き取りができないこと。私は、英会話の学校に通うのを辞めて、今度は聞き取り1本にしてみた。教材はアルク社の『1000時間ヒヤリングマラソン』である。「ヒヤリングマラソン」の最大の売りは、教材が毎月制作され自宅に届けられること。これによって、英語圏で流される最新情報を生の英語のまま、教材の形で学習できる。私はCNNの英語ニュースを聞き取れるようになりたかったので教材として最高である。

 1000時間のマラソンという名前もいい。トライアスロンをやっていた私は、時間の重要性をよく理解している。何事もたっぷり時間をかけなければ上達しない。1日3時間やって1年間で1000時間達成。挑戦のしがいがある。
さらに、とどめの殺し文句があった。「1日3時間、1年間で1000時間、ヒヤリングのシャワーを浴びれば、早い人で3ヶ月、遅い人でも半年後、革命が起こります。今まで音の固まりにしか聞こえなかった英語が、突然、意味を持った文章として聞き取れるようになるでしょう」。

 「革命が起こる!」。この文句に私はしびれた。夜間高校勤務の私は、朝、普通に起き、妻と子供達を送り出した後ヒヤリングマラソンに取り組んだ。かなり真剣にやった。単語帳も作り、内容を理解した上で何回もリスニングをした。とにかく、私は2度も英会話学校で挫折している。失敗の原因は聞き取り不足。これさえ強化すれば私の英語力は飛躍的に伸びるはず。と、勝手に思い込みラストチャンスのつもりで勉強した。

 3ヶ月頑張った。しかし、何も変化がない。私は遅いのかな……、少々不安を感じながら続けた。そして、6ヶ月がたった。何も変化なし。温厚な紳士の私も遂にブチ切れた。「ふざけるな! 遅い人でも半年後、革命が起こると書いてあるだろう。何も起こっていない俺はバカか?」その後、半年間、アルク社から毎月送られてくる教材だけが私の部屋の片隅に積み上げられていった。よくある風景である。
 
     
D 飛躍的に伸びた、今はなき英会話学校『バイリンガル』
   ある時、私は名古屋の繁華街をぶらぶら歩いていて、ある看板に目が止まった。英会話学校『バイリンガル』。私は何となくそのビルに入って行った。特に何も期待せずに……。受付嬢は誠に美しかった。しかも、英会話の講師だという。半ば英会話上達を諦めかけていた私は「彼女の魅力にすがるしかないか?」と、思いながら説明を聞いた。

 彼女の話は至って簡単、明瞭。「英語上達の目標はどこまでですか?」「いくらお金を出せますか?」そして、「お金を頂いた分、上達の保証をします」。
なるほど、お金さえ払えば上達を請け負うのか。よ〜し、やってやろうじゃないか。結局50万円くらい払った。詳しい条件は忘れてしまったが、週1回1時間弱の個人レッスンで1年間、約50回のレッスン代金だ。何と1回1万円の“超高額レッスン”である。ただし、全20巻の英会話用ビデオ購入代金を含んでいる。

 これから英会話を始めようとする人に多少の参考になるかもしれないので、やや詳しくバイリンガルの学習方法を紹介する。

(1)中学英語の「読み・書き」能力から「聞く・話す」能力へ

 最初の20回は、全20巻の英会話用ビデオにそって進む。まずビデオで家庭学習し、実際のレッスンは日本人講師による到達度のチェックである。このビデオ、極めて優れており私にとって抜群の効果があった。内容は中学校レベルの英文法を20項目に編集し、各文法事項を使った簡単な英文を外人が質問し日本人が答えているだけである。このビデオの目的は、大人の日本人が持っている中学校レベルの英語の「読み・書き」能力を「聞く・話す」能力に変換させることである。

 毎週1回、1巻ずつビデオにそって個人レッスンが進む。何しろ、1回1万円だ。しかも時間は50分程度。元を取ろうと思って私は必死で予習をやった。高額授業料の効果抜群。安ければここまで真剣に予習しない。最初は基本文型からだ。全部知っていることばかり。しかも英文も簡単。1日2時間くらい予習をして1週間も繰り返せば自然に英語が口から出てくる。個人レッスン当日には完璧に仕上がっており、講師も驚くほどの出来ぐあいだ。1週間ごとに文法事項が進んでいく。不定詞、関係代名詞、完了形、仮定法……。

 もともと私は中学校までの英語は得意だった。文法も単語もすべてOK。それが高校で崩れた。それはともかく、文法の基本はマスターしているので、その文法を使ってひたすら簡単な英文を「聞き、話す」ことを繰り返す。1週間も繰り返していると本当にその文法が身についてくる。テキストを見なくても「聞いて理解できる」ようになる。英作文を作ってから口に出さなくても、心に思ったことが「英文で口から出てくる」。これには驚いた。ごく限られた範囲であるが革命が勃発し始めた。

 20回にわたる日本人講師によるレッスンのうち、たった1回のみ、かの美しき受付嬢であった。あとは全て男性講師。「彼女はおとり作戦か?」
しかし、私はこの20週間(ビデオ20巻)にわたる学習を通して、中学校レベルの基本的な英文は「聞いて分かり話せる」レベルまでアップした。

(2)ピクチャーカードを使った「聞く・話す」総合練習

 ビデオ終了後の授業も素晴らしかった。これは外人講師との個人レッスンで、テキストとして「ピクチャーカード」を使う。1ページごとに日常生活の代表的な場面がイラストで描かれ、その場面で使う単語ものっている。予習として、その場面についてのあらゆる質問と答えを準備する。1週間に1ページしか進まない。私はあらゆる質問と答えを書き出し、それを1人で質問し、1人で答えた。絵を見ながら。1日2時間、1週間準備すれば十分である。レッスンがある日にはもう出来上がっている。外人講師もびっくりである。何しろ完璧な中学校英語の基礎の上に、20週間の「聞く・話す」集中学習をしたので、それらの基本的な英語を使えばピクチャーカードは難なくこなせる。

 ピクチャーカードも後半にさしかかると場面が次第に複雑になり出てくる単語も難しくなる。しかし、その頃になると、外人講師と自然に英語でしゃべっている自分がいた。革命が起こっていたのである。革命というのは勃発してみて初めて気が付くものだ。

 この頃になって、前に書いた2つの英会話学校を挫折した理由がはっきりしてきた。自慢じゃないが、私は英語読解力には少々自信があった。何しろ大学・大学院で物理の専門書や論文を英語で読んだ。辞書さえ使えばOKだ。しっかりした英語の基礎がある。「会話なんて少し練習すればできるようになるのでは?」と思っていた。よって、当然の如く、初級を飛ばして「外人講師による英会話(中級クラス)」から出発した。ところが、英会話については、実は、私は全くの初心者だった。自分のレベルもわきまえず、いきなり英語だけの会話クラスに入ったので落ちこぼれた。私のプライドが失敗の原因だった。

 自分の足もとをしっかり見て、レベルに合ったところから出発しなければならない。私はバイリンガルの教育方針に全幅の信頼を寄せ、50万円の投資に十分満足した。そして、このコースが終了したらさらに上級を目指そうと決心した矢先、バイリンガルは倒産した。
 
     
E その後の私の学校遍歴……ベルリッツ、ノバ……
   会社が倒産したにもかかわらず、バイリンガルは生徒の残りの授業料分だけ他の語学学校で代行授業を受けれるようにしてくれた。この会社は最後まで良心的だった。私は『ベルリッツ』に移籍し中級レベルのグループレッスンに参加した。講師は外人、生徒は30才前後の女性3名プラス私の4名のみ。分厚いテキストにそって授業は進められた。

 このコースの目的は「流暢な英会話のための実用的な伝達力の養成」。講師は立て続けに質問し、受講生に答えさせる。答が早ければ早いほどいい。ある講師は機関銃のように質問を浴びせてきた。こちらも必死だ。しっかりテキストを予習し話の内容や単語・熟語は頭に入れた上で授業に臨む。いかに早く正確に質問に答えるか、授業は真剣勝負の場になる。

 このようにスピードを競うことによって、授業中、日本語で考える時間が無くなり自然と英語から英語に変換されていく。女性3名のレベルも高かった。全員、英文系の大学出身でまだ若い。3人共専業主婦であったが英語への情熱は衰えていない。私は1年ほどベルリッツに通った。ある程度の英会話力があればベルリッツは非常にいい学校だと思う。教育方針(ベルリッツ・メソッド)が確立されており講師の質も高い。授業料が少々高いのが難点だが……。バイリンガルの授業料分をベルリッツで使い切った私は、次に、もう少しお安い学校に入学した。『ノバ』である。

 ノバ入学の時、レベルチェックテストがあった。簡単な英文法のテストと外人講師とのインタビュー。その結果、私は9段階の上から3番目、レベル3という判定だった。レベル3の概要には「日常会話は全く支障がなく、文法、構文もほぼ正確に使え、センテンスを論理的に構成しながら話せます」とある。明らかに上級レベル。これには本人がびっくり。私の英会話革命は本当だった。

 ノバは商売上手である。受付にはいつも若くてきれいな女性を多数配置し、そこに外人講師が多数出入りする。いかにもハイセンスなおしゃれな雰囲気である。受講生もその当時は圧倒的に若い女性が多く、さらに華やかになる。中年おじさんとしてはノバに行くだけで元気になる。しかも、私は上級クラス。「いい気分、夢気分」。

 ノバの商売上手第2弾は、レッスンを沢山受ければ受けるほど安くなること。支払い総額は大きくなるが1レッスン当たりの単価がかなりお安くなる。しかも、レッスン時間は自由予約制で1クラス3〜4名までの小人数。グレード制なので、上級レベルの私は個人レッスンになる可能性もある。私は、またしても大金をはたいて、3年間有効の600レッスンの契約をした。1日2レッスン、1週間に2回通って3年間続けるという“壮大な”計画である。支払い総額は忘れてしまったが、1レッスン千数百円という値段だった記憶がある。

 その結果は……。最初の1年間は刺激があり、教材も良かったのであるが、さすがに3年間、600レッスンは多すぎる。途中で飽きてきた。それに講師が毎回変わり継続性がない。結局、レッスンを残して辞めてしまった。ノバを辞めた理由は授業がつまらなくなったからである。外人との日常会話が中心のノバは初心者にはいいかもしれないが、真剣に上級英語を目指す人には物足りない。
 
     
F プロへの果てしなき道……インタースクール……
   英会話に自信がついてきた私は上級者目指して『インタースクール』に入学した。私の目標は「CNN放送を見て理解し、英字新聞・雑誌を辞書なしで読める」ことである。インタースクールはプロ通訳者・翻訳者の養成学校で、私はこの学校の「英語専修コース」を申し込み、レベルチェックテストを受けた。

 緊張の一瞬、全神経を集中してやってみた。「う……ん、難しい」。結果は英語専修Uレベル。これは4段階(TUVW)の下から2番目で、さらに英語専修Tは開講されていなかった。つまり、「え〜、私は最下位クラスか……?」である。これにはショック!ノバの上級クラスは一体何なの?さらに驚いたことには、この英語専修コース4段階を終了して初めて会議通訳コースに進める。ここはプロ通訳者による通訳訓練コースで、入門科TU・本科TU・プロ科と5段階もある。私の立っている所から、遙か彼方にエベレストの頂上はある。私はインタースクールのレベルの高さと真剣さに圧倒された。

 ここでインタースクールの「恐怖のリスニング授業」を紹介しよう。

 日本人講師がテープをスタートさせる。緊張の一瞬。ほんの2〜3分間、必死でメモを取りながらテープを聴く。よく分からない。しかし、プリント1枚くらいの原稿は既に読み上げられてしまっている。講師はテープを巻きもどし、あっさり宣言する。「では、これから訳してもらいます」。2〜3文章に区切って部分訳をするのである。

 テープ「スタート」すぐ「ストップ」。今度はほんの数秒間だ。「はい、舟橋さん。訳してください」。講師からご指名がかかる。しかも、ランダムに。いつ当てられるか分からない。指名された瞬間、頭の中が真っ白になり、何も答えられない。もう一度テープを回してもらう。すぐストップ。「はい、舟橋さん、今度は聞き取れましたか?」冷や汗タラタラ、心臓ドキドキ、「……」「すいません、もう一度お願いします」。

 テープは最近放送された英語ニュース「CNN,BBC,ABC等」から取ってきてある。1週間前のリスニングの授業の時に、次回のニュースのテーマと重要単語だけを書いたプリントがもらえる。事前のリスニングは一切なし。一発勝負。これが延々と続く。

 宿題もすごい。テープ1本が配布され、「聴き取って英文にして提出せよ」。
こんなことやったことがない。何回聞いても良く分からない。聞いて理解できないものをどうして英文にできるのか?踏んだり蹴ったりのリスニング授業である。でも、はっきりしたことがある。このように集中したリスニング訓練を続けなければ英語ニュースを“正確”に聴き取ることはできない。正確さを高めるためには想像を絶する努力がいる。プロの道は険し。

 英語専修コースの授業は1週間に2回ある。1回はリスニングで、もう1回はリーディング、同じクラスである。リーディングのテキストは英字新聞・雑誌からの記事の抜粋である。これが事前にもらえる。テキストをしっかり予習し授業に臨む。英語専修コースは半年で終了するが、終わったからといって上のクラスに上がれるわけではない。コースの途中でテストがあり、上級コース進学は実力次第である。入学金約4万円、授業料約16万円。週2回あるので半年でも35回くらい授業がある。私は半年間、なんとか落ちこぼれないよう必死でついて行った。そしたら、次の半年は英語専修Vに上げてもらえた。「よ〜し、やった!」。

 しかし、英語専修Vクラスは、さらにレベルアップし、リスニングは毎回「針のむしろ」だった。宿題の量も質もアップし、予習を含めて手が回らなくなってくる。そして、時々「欠席」。やばい!赤信号。どこの学校の生徒も欠席は挫折へのシグナル。私は必死で頑張ったのではあるが、仕事と“狂気の英語勉強”とは両立できない。私は1年間でインタースクールを去った。

 私は、CNN放送を聴き取り、英字新聞・雑誌を辞書なしで読むことがどんなに大変なことなのか良く分かった。私の目標を簡単に達成するような魔法の方法は……「ない」……のである。このレベルまできて、私が1000時間ヒヤリングマラソンに挫折した理由が良く分かった。ヒヤリングマラソンの教材はインタースクールのものと重なっている。英会話初級者がいきなりプロに挑戦しても勝てるわけがない。革命は永久に起こらない。
 ヒヤリングマラソンの名誉のために付け加えておくが、これは実にいい教材だと思う。日常英会話をマスターした中級者が、さらに上級目指して本格的に勉強するなら役に立つ。何事でも同じであるが、英会話学習においても、自分の実力をしっかり見て、本当に自分のレベルに合った教材や学校を選ばなければ努力しても報われない。
 
     
G 海外投資の思わぬプレゼント
   私は1998年から海外投資を始めた。何しろ2000万円以上外貨に換えたので外国為替の動きが資産の増減に直結する。私は日本円中心の為替だけではなく、外貨から外貨への為替レートも詳しく見るようになった。また、翌年から外国の債券を購入したので世界の金利動向も追跡し始めた。そして、最後にはアメリカ株・ヨーロッパ株まで手を出したので、世界経済の現状と将来を自分の資産運用の観点から分析するようになった。

 そして、1999年、私は資産運用の強力な武器を手に入れた。ケーブルテレビとケーブル回線による高速インターネットである。私は毎日、CNN放送を眺め、インターネットで情報収集した。残念ながらCNN放送から有益な情報を得られるだけの英語リスニング力は私にはない。しかし、インターネットは抜群である。私は次々に有益なホームページを探し(以下参照)、お気に入りに入れて、毎日情報収集していった。

私のお気に入りのホームページ

為替については
 
カナダ経済については
 
アメリカ経済については
 
海外旅行については

 私の資産運用のもう1つの武器。それは『ビジネスウイーク(アジア版)』である。5〜6年前から定期購読している。1冊140ページくらいの英文週刊誌で、毎週シンガポールから郵送されてくる。これが意外と安い。3年契約で購入すると(ノバと同じだ)郵送料込みで、1冊300円くらいの単価になる。コーヒー1杯の代金で、世界経済の鋭い分析記事が読める。

 私はビジネスウイークの1ヶ所だけは必ず読むことにしている。残りの記事は読まずに捨てることの方が多い。それは「ビジネス・アウトルック」。たった2ページだけであるが、毎週、アメリカ経済の現状と今後の見通しを詳しく分析してある。アメリカの金利・株・為替の動向を直接知る非常にいい記事である。

 私は「ビジネス・アウトルック」をコピーし、これをテキストにして毎週精読した。単語帳を作って語彙力を高める努力もした。同時にインターネットで関連記事を読み、辞書なしの多読も試みた。「多読と精読」、私はインタースクールで学んだリーデングの方法で経済分野だけに限定して英文読解をした。私は3〜4年間、これを続けた。おかげで、経済分野の記事については辞書を使わなくてもだんだん読めるようになってきた。海外投資の思わぬプレゼント、それは英語読解力のアップである。

 
     
H 熟年の英語上達の秘訣
   私は10数年にわたる英語学習の失敗と成功の経験から、少しだけであるが熟年の英語上達の秘訣が分かってきた。これを次にまとめてみよう。

(1)プライドを捨ててゼロから出発する

 熟年の英語学習の秘訣の第1は、プライドを捨ててゼロから出発することである。特に、団塊の世代の人達の中には中学・高校時代にしっかり英語を勉強してきた人が多い。そして、豊富な社会経験を経て今では立派な大人になった。それ故、英語学習の目標も自然と高くなる。「英字新聞や雑誌を辞書なしで読みたい」「生のCNN放送を聞き取れるようになりたい」「外国人とディスカッションしたい」等々。

 熟年の人達は努力家が多い。しかし、努力しても熟年からの英語学習に失敗する可能性が高い。理由は目標が高すぎることと自分の現在の英会話力のレベルを正確に認識していないことにある。逆に言えば、自分のレベルを正確に把握し、目標を低く設定すれば成功する確率は高まる。

(2)中学校レベルの英文法を完全に理解すること

 熟年の英語学習の秘訣の第2は、中学校レベルの英文法を完全に理解し、完成度の高い読解力をつけることである。40年近くも英語と無縁の生活を送っていれば英語のレベルはゼロに近い。一度、中学校レベルの英文法を総復習し完全に理解する必要がある。次に、テキストを見てできるだけ“早く正確に”音読できるよう練習する。一呼吸で5〜6行ぐらいの英文をすらすら音読できるくらいしつっこく練習する。早く正確に音読できるかどうかが成功と失敗の分かれ目である。

 ここまでは通常の受験勉強と全く同じ。熟年世代にとって受験英語は素晴らしい財産である。受験英語をやり直す。しかも、中学校レベルから。これならほとんどの人が成功する。世間一般には、受験英語は英会話に役立たないという議論があるが、私に言わせればとんでもない暴論である。受験英語こそ英会話の“基礎”だと私は思う。受験英語が英会話に役立たない理由は受験英語で終わってしまうからである。

(3)中学校英語レベルでのスピーキングとリスニングの徹底練習

 熟年の英語学習の秘訣の第3は、中学校英語レベルでのスピーキングとリスニングの徹底練習である。早く正確に音読できるようになったら、テキストを見ずに早く正確にスピーキングできるよう練習する。最初は1つの文章だけでいいからテキストを見ずに話してみる。次に、4〜5行の英文をテキストを見ずに話してみる。テキストの内容の場面を思い浮かべ、登場人物になりきって演じれば効果的である。日本語を介さずテキストの流れに沿って思ったことを英語でしゃべれるまで練習する。先を急がない。

 次に、同じテキストの英文をCDやテープを聴いて正確に聞き取れるよう練習する。スピーキングが完成していればリスニングは楽である。ここでも英文の範囲を広げず、先を急がず完全にリスニングできるまで練習する。
 聞きながら同じ英文を同時にしゃべっていく「シャドーイング」や、聞き取った英文を早く正確に書く「ディクテーション」まで実行すれば完璧である。

 上記のスピーキングとリスニングの練習こそ受験英語を英会話に発展させる方法であると私は思う。しかし、これがとんでもなく単調で苦しい。多くの有能な熟年がここで挫折する。理由は、やはり選んだテキストが難しいからである。そして、消化不良のまま先へ進むから途中でギブアップとなる。プライドを捨て、バカみたいな易しい英文から出発して、ゆっくりやる。テストがあるわけではない。先を急ぐ必要はない。

(4)自己投資のため、効果的にお金を使う

 上記の方法で中学校英語のスピーキングとリスニングを身に付ければ、あなたは既に英会話初級を脱している。知らないうちに中級クラスになっている。本当である。私がそうだった。逆に言えば、英会話学校へ何年も通っても初級を脱しない人は上記の(1)〜(3)が不足しているからである。

 中学校英語レベルでのスピーキングとリスニングがしっかりできるようになった人は英会話学校へ通いはじめると効果がある。自宅で延々と続けてきた英会話の勉強が英会話学校で花開く。外人とコミュニケーションがとれ嬉しくなる。1年間くらい英会話学校へ通ったら、次のステップとして好きな外国へ個人旅行に出かけるといい。海外個人旅行は英会話の実践道場である。恐らく数々の挫折や失敗を経験すると思うが、失敗を覚悟で飛び立とう!

 帰国後は海外旅行の挫折をバネに英会話をもっと真剣に勉強しようという意欲がわいてくる。老いても気力が衰えない。益々気力充実。そして、1年後、再び飛び立つ。そこで感動する。つまり、1年間の日本での努力の成果が次の海外旅行ではっきり実感できる。益々やる気になり、定年後の第二の人生が俄然おもしろくなる。

(5)自分の好きな分野に限定して上級英語を目指す

 ある程度の英会話力がついてくると自分の英会話の限界が見えてくる。飛行機の隣の席に偶然一緒になった外国人、勢い込んで話しかけるが1時間もすると話題がなくなり、その後は雑誌を見たり寝たり……。本当はもっと色々話したい。相手の国の政治、経済、文化、教育、医療、社会問題等々。話したいことや聞きたいことはいっぱいある。しかし、会話が続かない。なぜか?それは、それらの分野の英単語・英熟語・英語での背景知識が決定的に不足しているからである。もう少し深く話したいテーマがあってもそれらの英単語が出てこなければ話せない。では、どうするのか?

 スポーツ、芸術、政治、経済、文学、何でもいいから自分の一番興味のある分野に限定して、その分野の英語については上級を目指す。具体的には、英字新聞、英文雑誌、英語のWEBページを読み、英語放送を見る。その分野の知らない単語・熟語を片っ端から覚え、難しい構文や長い英文にも挑戦する。辞書を使った精読と辞書なしの速読を繰り返す。背景知識も英語で理解し積み上げる。ホットニュースを英語で追いかける、等々。気の遠くなるような作業である。

 くれぐれも範囲を広げず、自分の一番興味のある分野に限定する。方法は上記(1)〜(3)と同じである。これを毎日やる。実は、上級英語を目指す過程で受験英語、特に大学受験英語がいかに大切かが良く分かる。大学受験英語が完璧であれば英字新聞や英文雑誌は読めるはず。これはもの凄い財産である。ない人は勉強し直さねばならない。これは苦しい。

 1つの分野だけでも上級英語レベルに達してくると、不思議と他の分野も少しずつレベルが上がってくる。興味のある第2、第3の分野へ応用がきくようになる。ここまでくるとかなりレベルの高い会話が出来るようになる。特に、相手と自分の興味が同じであれば会話は一層盛り上がる。外人と英語で議論している自分に気がつく。
 
     
I おわりに……英語は世界を開く!……
   私はよく一人で海外旅行に出かける。旅の途中、見知らぬ外国の人との偶然の出会いがおもしろい。飛行機の中で、列車やバスの中で、そして豪華客船の中で…。私は相手の興味・関心に合わせながら必ずその人の人生を聞く。その人の過去・現在、そして許される範囲内で将来展望まで聞く。

 2005年の秋、ヨーロッパ鉄道の旅をした時、私はある上品な老婦人と出会った。スイスのチューリッヒ発ドイツ(フランクフルト)行き特急列車の中である。若かりし頃はさぞ美しかったと推測されるドイツ系カナダ人である。彼女はドイツで生まれ育ったが、第二次大戦後のドイツの荒廃と混乱が嫌になり、単身カナダに脱出した。そして、若き日はバレリーナとして舞台に立ち、その後はバレエ学校の教師を長く務めた。カナダに来ていたスイス人の実業家と結婚しモントリオール(カナダ)に大きな邸宅があると言う。

 今では夫婦共にリタイヤし、カナダとスイスの両国から年金をもらって悠々自適の生活をしている。春から秋までは涼しいカナダで暮らし、冬になると暖かいスイス(チューリッヒ)に移るという。二人合わせた国籍はドイツ、カナダ、スイスの3カ国に及び、金融資産もカナダドル、スイスフラン、ユーロ、米ドルと分散して持っていると言う。まるで映画になりそうな話である。

 私は外国の債券を中心として海外投資をしているので、投資先の経済状況が気になる。北米・ヨーロッパ・オセアニアなど各国のインフレ、金利、株価、失業率、不動産状況等、知りたいことはいっぱいある。もちろん、これらは新聞・雑誌を読むことによってだいたいはつかめる。しかし、マスメディアによる学者や専門家の分析ではなく、私は普通の人の生の声を聞いてみたい。本当はどうなのか?と。よって、旅先で偶然出会った人が実業家であれば会話に熱が入る。

 ユナイテッド航空のビジネスクラスに乗った時、隣の席の人はアメリカのベンチャー企業の副社長だった。50代後半、ロスアンゼルス在住の太り気味のエグゼクティブである。ロス郊外に別荘を持つ。パソコンで写真を見せてもらったが、ビーチに面した素晴らしい別荘で、そこに家族や友人達を招いてパーテーをすると言う。今で言う「アメリカの勝ち組」の一人である。

 しかし、少し突っ込んで聞いてみると、生活は意外と大変そうだった。4人の子供がおり、4人とも大学まで教育をつけさせているので教育費が膨大である。また、ロスの自宅と別荘のローンも沢山残っており、少なくとも65歳までは働かねばならないと言う。日本からアメリカへの飛行中、彼はパソコンで長時間仕事をしていた。53歳で早期退職し、第二の人生をはじめた私をうらやましいと彼は言う。どちらが幸せか?

 旅先で出会った多くの外国人と話をしていて、私はあることに気が付いた。それは、お互いの興味・関心・問題意識が同じであれば、会話は盛り上がりいつまでも続くということである。これは極めて当たり前のことで、日本人同士でも同じことであろう。しかし、ここに熟年の英語上達の最後の秘訣がある。

 即ち、知性と教養ある熟年として、自分の人生について、また、日本や世界について「語るものがあり」それを「英語で語ることが出来る」かどうか?また、相手の言っていることを、細部はともかく「概略は理解できるリスニング力」があるかどうか?である。従って、ネイティブや帰国子女のような流暢な英語を目指す必要はない。早く上手にしゃべれなくてもよい。自分の主張したい事をちゃんとした英語でゆっくりしゃべればいい。会話の中身が質が高くて豊富であれば相手は必ず敬意を持って接してくれる。お互いの人生に共感できるものがあれば信頼関係が出来上がる。
 シドニーで乗ったタクシーの女性ドライバーはハンガリー動乱後の故郷を脱出した元歯科医だった。カナダの長距離バスでは若い頃母国ヨルダンを飛び出した実業家に出会った。メキシコクルーズで親しくなった中年夫婦はフィリピン系アメリカ人で、若い時、フィリピンを捨てアメリカに夢を託して渡米した看護士夫婦であった。

 世界を見わたせば、現在でも貧困にあえいでる国は多く、内乱で互いに殺しあっている国もある。未来が見えない国の若者はやむなく故郷を捨て、外国に夢を託す。人生を賭けた大勝負である。戦後一貫して平和な日本で生まれ育ってきた私には、故郷を捨てた彼らの苦難の道は想像すらできない。

 急速に進む少子高齢化と巨大な財政赤字を考えると日本の将来は暗い。いずれ日本が先進国からずり落ちる日が来るかもしれない。貧富の差が限りなく広がり、犯罪が多発する。考え過ぎと批判を受けるかもしれないが、途上国の多くの人が故郷を捨てたように、我々も日本を脱出しなければならない状況になるかもしれない。そんな時、自分の資産を外貨で持ち、英語で外国人とコミュニケーションできる力があれば未来は明るい。世界に羽ばたける。
 
 
(2006年11月1日)