10年くらい前、私はオーストラリアに2回旅行した。1回目はシドニー、2回目はケアンズで、オーストラリアの洗練された都市や大自然の素晴らしさに魅了された。さらに滞在中、街の色々なフードコートやレストランをはしごして食事を楽しんだのであるが、肉類とシーフードの「おいしさ」と「安さ」に驚いた。日本からそれ程遠くなく、時差(東海岸)もわずか1時間なので、退職後のロングステイ先として誠にうってつけの場所だと思った。
しかし、今回はゴールドコーストの物価上昇に驚いた。街のテイクアウトショップでコーヒーと小さめのサンドイッチを買うだけで約1000円。小綺麗な中華レストラン(夕食)の海鮮ラーメンが約2000円、ステーキを注文すれば約3000円〜。大ざっぱな印象として昔(10年前)に較べて、物価が2倍になったような気がした。ゴールドコーストという世界的な観光地としてのプレミアムを考えても物価上昇が激しい。一体どうしたことか?
以下、私の分析である。(私は研究者ではないので、あくまで概算)
1.消費者物価指数(インフレ率)
私は、日本とオーストラリアのインフレ率をネットで調べ、1996年を基準に2006年までの10年間の累積インフレ率を計算してみた。その結果、10年間で日本は1%ダウン、オーストラリアは32%アップ、よって、両国のインフレ率の差は約33%であった。
2.為替レート
我々日本人が海外旅行をする時、為替の影響を大きく受ける。1997年の為替レートは1オーストラリアドルが約80円程度だったのが、2007年末では100円前後になった。25%程度上昇している。
以上より、インフレ(1.33倍)と為替(1.25倍)を掛け合わせれば、1.66倍となり、日本から見たオーストラリアの10年間の物価上昇率が1.7倍程度になっていることが分かる。大都市や観光地であれば2倍になっても不思議ではない。
ここで、もう少し為替レートを分析してみる。
インフレ率の高い国の通貨は預金金利が高い。ニュージーランドドルやオーストラリアドルは高金利で日本人の外貨・外債投資先として人気が高い。しかし、インフレ率が高いということは、その通貨の価値がインフレ分だけ下がるということで、為替レートで見れば、その国の通貨安になるはずである。一方、日本は物価上昇がゼロ(またはマイナス)のためほとんどゼロ金利。しかし、インフレ率がゼロの分だけ日本円の価値は下がらない。為替レートで見れば、インフレがない分だけ円高になるはずである。ただし、この議論は両国の経済力が一定であるという前提にたつ。
以上より、日本とオーストラリアの10年間のインフレを考慮すると、日本円はオーストラリアドルに対して33%高くならなければならない。1997年のレートを1ドル80円で計算すると1ドル54円程度になる。10年前の1ドル80円と、現在の1ドル80円では意味が違う。為替レートの値を固定的に考えると真実を見失う。よって、1ドル100円近い現在のレートは、「2倍」も日本円が安くなっているのである。しかし、これは日本の経済力の低下(オーストラリア経済力の上昇)を示しているのかもしれない。
私は昨年(2007年)の春にタイのプーケットに、夏にスペインに旅行したが、何れも物価が高いのに驚いた。逆に言えば、日本円の海外での購買力が急速に衰えてきていることを実感した。長い間、日本人は日本のデフレ経済とゼロ金利に慣れてしまったが、海外ではその間にインフレが進行し、物価が高くなっている。そのインフレ分だけ円高になっていれば問題はないわけであるが、現在の為替レート(特に米ドル以外の通貨に対して)は相当円安である。
かつて、強い円を持って海外(特にアジア、オセアニア、ヨーロッパ)に出かけ、上質なサービスを「格安」にエンジョイしてきた私としては「海外旅行」を見直さなければならない状況が現れてきている。
各国の経済力の指標である1人あたりのGDP(国内総生産)を見てみると、急速に斜陽化する日本経済の姿が分かる。2000年の日本の1人あたりのGDPは3.8万ドル(米ドル、以下同様)で、堂々の世界第2位(1位はルクセンブルク)であった。ところが、2006年には3.4万ドルと減少し、何と19位に転落してしまっている。14位のカナダ(3.8万ドル)、16位のオーストラリア(3.7万ドル)に抜かされ、後ろにはイタリア(20位、3.1万ドル)スペイン(23位、2.8万ドル)と続く。このランキングは為替の影響大ではあるが、たった6年間で、日本は先進国の最下位グループに転落してしまった。貧乏な国の国民は気楽に海外旅行できない。急激な発展をしているアジア諸国を見ると、10年後の日本は途上国の仲間入りをすることになるのでは?
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