@ 出航シーンはニューヨークの摩天楼  
     
A 14万トンの豪華客船、エクスプローラー  
     
B 何もしない洋上のクルージング  
     
C 大西洋の孤島、バミューダ諸島  
     
D 洋上のエンターテイメント  
     
E カリブ海に浮かぶ宝石のような島々―セント・マーチン―  
     
F カリブ海に浮かぶ宝石のような島々―セント・トーマス―  
     
G 借金をしてクルーズに乗る人々  
     
H クルーズで出会った人々  
     
I まだ見ぬ日本人との偶然の出会い  
     
J 一般情報  
     
     
@ 出航シーンはニューヨークの摩天楼
  私は2007年5月中旬、ロイヤルカリビアン社のエクスプローラーによるバミューダ・カリブ海クルーズに行ってきた。クルーズの出発はニューヨーク郊外のニューアーク・リバティ・ポートである。

私は、クルーズの3日前にニューヨークに到着し、リバティ・ポートに近いマリオット系列のホテル「スプリングヒル・スイート・ニューアーク・リバティエアポート」(写真1)に3泊した。ニューヨーク市内のホテル代はびっくりするほど高い。しかし、このホテルは1泊のルームチャージ代が109$、税・サービスを含めても124$程度と格安である。それでいてリビングルームもある広い客室(写真2写真3)や室内プール(写真4)エクササイズルーム(写真5)等施設は充実している。クルーズの前泊ホテルとしてお勧めである。

5月11日(金)午後5時、エクスプローラーの出航。残念ながら天気が悪く、空は厚い雲におおわれている。港周辺の眺めもよくない。遠くに見える自由の女神とマンハッタンの摩天楼が唯一の救いである。それでも出航シーンである。これから9泊10日のクルーズがはじまる。多くのゲストが展望デッキに群がり出航シーン(写真6)を楽しんでいる。プールサイドではウエルカム・カクテル・パーティーが開かれ、大音響のバンド演奏で既に盛り上がっている。

私の部屋はデッキ3の3246号室、バルコニーなしの海側客室(写真7)である。やはり海側客室はいい。キングベッドの枕元には大きな丸窓があり、いつでも好きな時に海が見える。使い易いライティングデスク(写真8)、大きめなソファー(写真9)、機能的なシャワールーム、スーツケース2個を入れてもまだ余裕の収納スペース等がある。客室の広さは16.7uあり、この部屋で快適に過ごせそうである。

今回のクルーズは私にとって3回目であり、9泊10日というロングクルーズなので少々高くついたが海側客室にしてみた。それでも、私の支払ったクルーズ代金の総額は約25万円である。今回も私は1人で参加したので、もし、2人で乗船すれば1人あたり13万円くらいの値段になる。この値段で9泊10日のバミューダ・カリブ海クルーズ(海側客室利用)が実現する。

日米のクルーズ代金の比較をするとおもしろい。日本人に人気のある豪華客船『飛鳥U』の値段を調べてみると、横浜発着9泊10日「上海・青島浪漫クルーズ(2008年3月)」の海側客室(バルコニーなし:18.4u)が40万円〜50万円であった。これは2人参加の1人様料金である。(2007年JTB海外クルーズのパンフレットより)

アメリカ発着の普通のクルーズ代金は概算すると日本船クルーズの3分の1である。インターネットが普及し情報が世界で共有されつつある現代にあって、内外価格が3倍も開いている商品は珍しい。安くて豪華、今、私は海外発のクルーズに夢中である。

   クルーズ日程
   5/11(金)  PM5:00 ニューアーク・リバティポート出航
   5/12(土)  洋上のクルージング
   5/13(日)  AM8:00 バミューダ着     PM5:00 出航
   5/14(月)  洋上のクルージング
   5/15(火)  PM12:00 セント・マーチィン着   PM9:00出航
   5/16(水)  AM8:00 セント・トーマス着   PM6:00 出航
   5/17(木)  AM7:00 プエルトリコ着    PM2:00 出航
   5/18(金)  洋上のクルージング
   5/19(土)  洋上のクルージング
   5/20(日)  AM8:00 ニューアーク・リバティポート着

 
     
A 14万トンの豪華客船、エクスプローラー
 

日本船最大の豪華客船『飛鳥U』でも5万トンクラスである。私の乗船したエクスプローラー(写真10)は何と約14万トンもある。全長311m、全幅48m、全高63m。そして、乗客定員は3114人、乗組員数1181人の巨大豪華客船である。

ロイヤルカリビアン・インターナショナルは1999年より2003年まで毎年14万トン級の客船(ボイジャーシリーズ)を就航させ、現在5隻のボイジャーシリーズ客船がカリブ海を中心に世界の海をクルーズしている。エクスプローラーは2000年10月の就航である。(ロイヤルカリビアン社は2006年から16万トン級のウルトラ・ボイジャーシリーズ客船を就航させた。巨大化の流れは止まらない)

このシリーズの特徴は船の中に街があることである。ロイヤル・プロムナード(写真11写真12)と呼ばれる通りの両側には数多くのショップ、バー(写真13)、カフェ(写真14)が軒を連ね深夜でも人通りが絶えない。14万トン級の巨大船はほとんど揺れないので、ここにいると自分が本当に都会の繁華街にいるような錯覚に陥る。

私は、自分の客室を確認した後、早速11階にあるビュッフェ形式のカジュアルレストラン「ウインジャマー・カフェ」(写真15)に昼食を食べに行った。何カ所にもビュッフェカウンターがあり、美味しそうなご馳走が所狭しと並んでいる。そこから好きな物を少しずつ取り分けて自分のランチメニューを作り、海の見えるテーブル席(写真16)でゆっくり味わう。至福の一瞬、ケーキ類もいっぱいある。(写真17写真18

メインダイニング(写真19写真20)は3階吹き抜けで最大1900名が一度に食事ができる壮大なレストランである。中央の大階段からドレスアップして降りてくればあなたは映画の主人公になる。朝食・昼食は自由席で、夕食はメインシーティング(前半)が6時から、セカンドシーティング(後半)が8時半からはじまる。クルーズ期間中ディナーテーブルの席は決まっているので、どのような人達と出会うか楽しみである。

20$程度の予約料がかかるが、本格的なイタリアレストラン「ポルトフィーノ(写真21写真22)」で二人だけのロマンチックな夕食を楽しむこともできる。もちろん、ビュッフェレストランで気軽に夕食が取れるし、疲れていたらルームサービスにしてもいい。船内での食事はアルコール飲料や一部のソフトドリンク以外はすべてクルーズ代金に含まれているので安心してメニューのオーダーができる。

腹ごしらえが終わったら、船内探検である。いつもながらこれが実に楽しい。まずは、これから色々お世話になるゲストリレーションデスク(写真23)に行き、ツアーの申し込みをする。その後、この船に何人の日本人客が乗っているか聞いてみた。私はその答えに驚いた。

「舟橋さんを含めて2名です」

3000人を超す乗客の中で私以外にもう1人の日本人がいる。何だか嬉しくなる。まだ見ぬ日本人にロマンを感じる。(若くて美しい女性であることを願いつつ、そんなことあるわけないので、多分中高年のおじさんだろう…と予想する)

ゲストリレーションデスクはロイヤルプロムナードの端にあり、同じプロムナードの一角に私の行きつけの店「カフェ・プロムナード」(写真24)がある。24時間営業のカフェで、いつでも軽食(サンドイッチ、デニッシュ、ケーキ、クッキー)とコーヒー、紅茶が楽しめる。しかも、無料である。シアトルズ・ベスト・コーヒーも併設しており、有料であるが本格的なカップチーノ等(写真25)も味わえる。同じ場所にアイスクリーム専門店「ベン&ジェリー」(有料)もある。

展望デッキのプールサイド(写真26)は国際的な社交場となる。欧米人は日光浴(写真27)がお好きなようである。一日中、プールサイドで読書、昼寝をしている人が多い。アダルトな雰囲気のソラリウムプール(写真28)もある。天井が開いた半室内の構造になっており、大きなジャグジーも2つあるので寒い時にも日光浴が楽しめる。

エクスプローラーの中には数多くのラウンジがある。その中でも私の1番のお気に入りは、最上階のデッキ14にある展望ラウンジ「バイキング・クラウン・ラウンジ」(写真29写真30)である。窓側の席からプールデッキを見下ろし、遠くに目を向ければ大海原(写真31)が見える。ピアニストの生演奏も素晴らしい。ドリンク類は有料であるがお勧めの場所である。

14万トンの巨大豪華客船の展望ラウンジからカリブ海に沈む夕陽(写真32)を眺めていると、年齢を忘れてもう一度何かに挑戦したくなる。もし、私が映画『タイタニック』のジャックのように若い青年だったら、これから何をするだろうか?自分を非日常的な環境の中に置いてみると、非現実的な夢が次々に湧いてくる。私はここでよく日記を書いた。

 
     
B 何もしない洋上のクルージング
 

今回のクルーズは9泊10日とやや長いが、寄港地は4カ所のみ。どこにも寄らず、ひたすら海の上を進む日が4日間もある。実は、この何もしない洋上のクルージングこそクルーズの醍醐味かもしれない。

寄港しない日の朝はゆっくり起きる。客室のカーテンを開ければ青い海(写真33)が見える。早速、熱いシャワーを浴びる。バスローブがないのが少々不満であるが適度にエアコンの効いた部屋は快適である。

時間はたっぷりあるので朝食をルームサービスにしてもよい。ただし、電話でのオーダーであるし、付け合わせやサイドメニューも細かく注文しなければならいので苦労する。しかし、何を注文しても無料なので失敗を覚悟でやってみる価値はある。英会話の実践練習となる。(前夜に朝食メニューを選んでドアのノブに掛けておけば電話に頼る必要がない)

ある日の朝、私は各種ある朝食メニュー(写真34)の中から「カントリーブレックファースト」(写真35)を注文した。スクランブルエッグにハーシュブラウン(ポテト)、焼きトマト、4種類のパン、絞りたてのオレンジジュース、そしてポットに入ったコーヒー。ハムかソーセージを注文するのを忘れたがこれで十分である。

料理を運んできてくれたウエイターに1$のチィップをあげてからゆっくり朝食を食べはじめる。テレビから流れるクラッシック音楽をバックミュージックにして、海を眺めながら誠に優雅な朝の一時を部屋で過ごした。妻と(あるいは恋人)と一緒なら迷わずバルコニー席で朝食を食べるのであるが……。

寝て食べてばかりいたら体重増加は果てしない。朝食後は11階にある展望のいいフィットネスセンター(写真36)に行く。大海原を見ながらトレッドミル(写真37)でジョギングをしたり、各種マシン(写真38)で体を鍛える。普段通っている地元のフィットネスクラブと同じことをしても、なぜか気分が盛り上がってくる。精神的に少なくとも10歳は若返る。疲れてきたらフィットネススタジオ(写真39)の床にマットを敷いてゆっくりストレッチをする。仕上げは広々としたジャグジーかサウナである。

展望デッキに出てみると一面の青い海!豪華客船から眺める紺碧の海(写真40)。これこそ最大のご馳走だと思うのであるが、お昼になると自然にお腹が減ってくる。足がビュッフェレストランに向かう。好きな時に好きな物を無料で食べれるクルーズはグルメ派にとってはたまらない魅力である。

それにしても、11階の「ウインジャーマ・カフェ」の混みようは異常である。3000人を越える乗客が唯一のビュッフェレストランに殺到する。昼食時には料理を取るための長い列がいつも出来ており、広いレストランの席もいっぱいで座れないこともある。こんなことがあっていいのか?

幸いメインダイニング(写真41)もオープンしているので、優雅にランチを楽しみたい時には少しだけドレスアップしてダイニングルームに行くといい。お昼のダイニングルーム(写真42)はかなり空いていてゆっくりコース料理が味わえる。

ある日の昼食時、私は満員のビュッフェレストランが嫌になり1人でダイニングルームを訪れた。ウエイターはごく自然に私を、ある中年のアメリカ人夫婦の席に案内してくれた。見知らぬ外国の人との偶然の出会い、私はパスタのコース料理を注文し 彼らと一緒に楽しいランチタイムを過ごした。アメリカ発着のクルーズはどこでもいつでも英会話の実践練習となる。ダイニングルームでコース料理を食べても無料である。私は何となく申し訳ないような気がしたので有料の飲み物を注文した。

また、ある日のランチはルームサービスにしてみた。各種ランチメニュー(写真43)の中から電話で細かく注文する。季節のフルーツ盛り合わせ、本日のスープ、メインはハンバーガー、デザートメニューからチーズ盛り合わせ、そして飲み物はレギュラーコーヒー。以上で本日のランチ(写真44)が出来上がる。また、別の日はメインをピザにして、シーザーサラダ、スープ、チョコレートタルト、コーヒー(写真45)にしてみた。

デッキ2から4までの3層吹き抜けの巨大劇場、パレスシアターに驚かされる。ここで毎夜、華麗なショーが見られる。ある夜は「ビートルズ・マニアック(写真46)」だったり、また、ある夜はオーケストラのバックでの「シンガーズ&ダンサーズ(写真47)」だったり……。

私は飽きもせず毎夜シアターに通った。しかし、コメディーなどバラエティーショーも多く、これは全くダメだった。他の観客が笑い転げていても何を言っているのかさっぱり分からない。途中で退散した。外国船の難点である。

シアターの後はラウンジ(写真48)でくつろいだり、ピアノバーでピアノの生演奏を聴いたり、気分転換に熱いコーヒーを飲みながら夜のデッキ(写真49)を散歩したり、そうしているうちに夜は更けていく。

 
     
C 大西洋の孤島、バミューダ諸島
 

最初の寄港地は大西洋の孤島、バミューダである。客船がバミューダに近づくシーンは忘れ難い。小さな岬に囲まれたプライベートビーチと丘の上に建つピンクのホテル(写真50)が我々を出迎えてくれる。ここが夢のようなリゾートの島であることを予感する。

5月13日(日)朝8時、エクスプローラーはバミューダの西、半島の先端にあるロイヤル・ネイバル・ドッグヤード(写真51写真52)に到着した。

この日は午前中3時間の島内観光タクシーツアーに参加した。集合場所のピア(埠頭)に行くと既に同じツアー参加者が長い列を作って待っている。先頭集団から6人グループになって小型バンに乗って島内観光に出かけるのである。バミューダは小さな島からできており道が狭い。小高い丘の上やビーチまでお客を案内するためには小型バンは実に機能的である。

ドッグヤードを出発したタクシーはいくつもの美しい入り江(写真53)に沿いながら次第に丘の上に向かい「ヘイドン・トラスト・チャペル(写真54)」で止まった。この教会は1616年に作られたもので、教会の裏庭に大きな水のタンクがあった。小さな島からなるバミューダでは今でも雨水を貯めて生活用水として使うという。食品を含め多くの物資を輸入に頼っているので物価は非常に高い。特に不動産は高額で、普通の家でも100万$(1億2000万円以上)はするという。

次に止まったのが、世界で一番小さい引き上げ橋である「サマーセット・ブリッジ(写真55)」。透明な海水の中で沢山の魚が群れている。その後、半島中央の山道であるミドルロードを抜け、ビーチに沿ったサウスロードに下る。ピンクサンドのビーチ(写真56)がいくつも見えてくる。その中の1つ、ガイドお勧めの美しいビーチ「ホースベイ(写真57)」で下車し、しばらく潮の香りと波の音を楽しむ。

このツアー客の構成は、イギリスのシニア夫婦、アメリカのファミリー(中年夫婦と可愛い子供2人)そして、私の7人。お客の人数が少ないうえに小さなワゴン車に同乗しているので、お互いにすぐに親しくなり一体感ができてくる。

また、運転手兼ガイドのマリリンさん(写真58)も良かった。非常に綺麗な英語を話し見所を丁寧に説明してくれた。おかげで私でも何とか要点だけは聞き取れた。彼女はバミューダで生まれ育ち、アメリカの大学を卒業、既に40歳になる子供がいるという。これにはツアー一同びっくり。パワフルでサービス精神旺盛な彼女は一体何歳なのか?

このツアーのハイライトは「ギブスヒル・ライトハウス(写真59)」、バミューダの一番高い丘の上に建てられた灯台である。私は早速、長い階段を登り灯台の一番上の展望台まで上がってみた。ここからの見晴らしが絶景。まさに息を飲むほど美しかった。(写真60写真61写真62写真63

 
     
D 洋上のエンターテイメント
 

エクスプローラーの施設には驚くことが多い。船の中の街であるロイヤルプロムナードをはじめとして、ロッククライミング壁(写真64)バスケットコート、パターゴルフ、ウオータースライダー。そして、船上でのアイススケートリンク。ロイヤルカリビアン社はクルーズの大衆化を目指しており、若者やファミリーも重要なターゲットにしている。「豪華客船=金持ちシニアの遊び」という構図は少なくともロイヤルカリビアンにおいては完全に崩れ去った。

クルーズの大衆化には異論ないが、なぜ、船の上にこのようなプレイランドが必要なのか?私はおいしい料理と快適な客室、そしてどこまでも青い海があればそれでいいのであるが……。

それはともかく、洋上のクルーズで退屈する暇はない。船会社はゲストを飽きさせないようにと連日色々な企画をしてくる。ロイヤルプロムナードでのクルー達の仮装パレード、船長SVERRE RYAN(写真65写真66)はじめクルー達の歓迎スピーチ、各種セミナー(写真67写真68)、ヨガ・シエイプアップ教室、ダンス教室、ビンゴ大会、夜のプールサイドのデザートビュッフェ(写真69写真70)、深夜のダイニングルームでのガラビュッフェ(写真71)、その他、多数。これらの情報が「クルーズ・コンパス(写真72)」というパンフレットに書かれており毎日客室に届けられる。

私は朝7時には起きて、クルーズコンパスを抱えて11階のビュッフェレストランに行く。この時間帯はまだ客は少なく、静かで優雅な朝食が取れる。見晴らしのいい窓側の席に座り、お好みの朝食メニュー(写真73)を作って、クルーズコンパスを読みながらゆっくり朝食を味わう。幸せを感じるひとときである。

ある日、「若い日本人スケーターがアイスショーに出演している」という情報を得たので、早速、ショーを見に行った。洋上のアイススケートリンク、そして、趣向を凝らしたアイスショー(写真74)、何か不思議な感じであるが、お目当ての日本人は中田誠人(まこと)さんである。(写真75

日本でフィギアスケートの選手として競技を続けてきた中田さん(23歳)は1年程前に進路変更。ロイヤルカリビアンの最大客船(16万トン級)の「フリーダム」に8ヶ月、「エクスプローラー」に4ヶ月乗船している。ソロの演技も多く、アイスショーの中心キャストの1人として活躍している。2007年9月から6ヶ月契約で「マリナー」に乗船する予定だと言う。

ハンサムでかっこいい彼の演技(写真76)には観客を惹きつけるオーラがある。多くの観客が彼を絶賛している。

中田さんは語る…
「今の仕事をはじめてから、世界中の人達、特に歌手、ダンサー、ウエイターの人達と知り合いになれてとても良かった。英語は船に乗る前まで全くダメだったが、なんとかなっている」そして、最後に「失ったものは何もない。得たものは数え切れない」と。

若い日本人がたった1人で海外の豪華客船に乗り込み、真剣に生きている。そんな姿を見ると嬉しくなる。頑張れ中田さん!

 
     
E カリブ海に浮かぶ宝石のような島々―セント・マーチン―
 

5月15日(火)午前11時半頃、エクスプローラーはカリブ海に浮かぶ小さな島「セント・マーチン」のフィリップスバーグに(写真77)に到着した。展望デッキに出てみると相当暑い。これなら海水浴が十分楽しめる。

私は「セントマーチン・ビーチランデブー」というツアーに参加した。エクスプローラーには3000人を超える客が乗っている。その人達が一斉に下船し、各種ツアーに参加するので、埠頭(写真78)はごった返している。その中から自分の参加するツアーガイドを探して列に並ぶ。ハーレーに乗った一群が爆音を轟かせて走り去る。ハーレーツアーの人達である。

セントマーチンは面積88u、東西南北17kmの小さな島であるが、島の中央は山脈になっている。山脈(境界線)の北側がフランス領、南側がオランダ領になっており、ツアーのバスはオランダ領のフィリップスバーグから出発してフランス領の美しいビーチ「オリエント・ビーチ」に向かう。

オリエント・ビーチ(写真79写真80)は真白な砂とヤシの木が印象的なイメージ通りの美しいビーチであった。数え切れないほどのチェアが並びクルーズ客が思い思いのバカンスを楽しんでいる。このビーチのキャッチフレーズは「カリブ海のフランス・リビエラ」(写真81)である。南フランス、地中海に面する洗練されたリゾート地リビエラをそのままカリブの地に誕生させた訳である。

まずはラウンジチェアを確保し3$払ってパラソル(写真82)をつけてもらう。次に、ヤシの木で囲まれたビーチサイドレストラン・バー(写真83)でランチ(写真84)を取る。はっきり言ってまずい。しかし、とりあえずは腹ごしらえする。その後は、ツアーで知り合ったミリアムさんとお喋りをしたり、シュノーケルをしたりしてカリブの海を堪能した。

ミリアムさんはアイルランドから来た若い女性である。たまたま、私の隣のビーチチェアに1人で座っていたので、私から声をかけた。

彼女は語る……
「私はアイルランドで園芸の仕事をしており、学歴もなくて世の中のことはあまり知らない。そこで、思い切って旅に出てみた。今回は、生まれてはじめての1人旅、生まれてはじめてのクルーズ…。今までに5人の1人旅のクルーズ客と出会い、多くの親切な人達に助けられた。旅に出て本当に良かった。とても満足している」と。

旅は人を大きく飛躍させる。まだ見ぬ美しい景色、見知らぬ人との偶然の出会い……。
旅は私の人生を限りなく豊かにしてくれる。


 
F カリブ海に浮かぶ宝石のような島々―セント・トーマス―
 

翌朝、午前8時、エクスプローラーはヴァージン諸島のゲートとなる「セント・トーマス(アメリカ領)」に到着。ヴァージン諸島はプエルトリコの西方、カリブ海に浮かぶ約160もの島と岩礁からなる諸島である。西側の諸島がアメリカ領、東側がイギリス領。クリスタルな海とグリーンの森林におおわれた島々は、1493年コロンブスが到着した時のままの手つかずの自然が今でも残っているという。

セント・トーマスの中心地シャーロット・アマリィの港は実に美しい。町の西側にある岬の先端にマリオット・フレンチマンズ・リーフホテル(写真85)がそびえている。港の正面は穏やかな入り江(写真86)になっており無数のヨットが停泊している。そして、町を取り囲む緑の山々と青い海。(写真87)客船のデッキからシャーロット・アマリィの港を眺めているだけで幸せな気分になる。

私の選んだツアーは「セントジョン・ビーチツアー」である。 シャーロット・アマリィの波止場から小型フェリー(写真88)に乗って40分くらいでセントジョン島(アメリカ領)のナショナルパークドッグ(写真89)に着く。ここで、サファリバスに乗り換え美しい自然が残されている国立公園内を通り抜けていく。丘の上から眺めるクルーズベイ(写真90)やカニールベイ(写真91)は実に美しい。

この島はどこを見ても美しい。ホテルもコンドミニアムも道路もしっかり手入れがしてあり、バスで通りすがりに見ているだけでも気持ちが高まってくる。そして、今日の目的地「トランクベイ」(写真92写真93写真94写真95)は私が今までに訪れたビーチの中で、文句なくベスト1である。「トランクベイは世界でトップ10に入る美しいビーチ」というツアーのパンフレットは嘘ではなかった。

多くのビーチは白砂が続く故にサンゴ礁はなく魚も少ない。しかし、トランクベイの前には大きな岩礁がありサンゴ礁が健在している。ただ、サンゴの数は多くなくサンゴ礁目当てで行くとがっかりする。それでも魚はいっぱい群れており、シュノーケルに絶好のポイントである。

何故か分からないが、このビーチには体長数pの小魚の群れが至る所にいる。その小魚が何万匹と集まり1つの大きな魚影をなし、時々刻々変化する。そこに朝日が射し込むので目の前で幻想的な世界が展開する。私はその魚影に向かってシュノーケルで突入していく。すると自分が魚の中で泳いでいるような不思議な感覚になる。

このような美しいビーチに出会えた幸運を私は素直に感謝したい。神と仏と、そして1人旅を許してくれた我が妻に。


 
G 借金をしてクルーズに乗る人々
 

11階のウインジャーマ・カフェのサブ・ウエイターのクリント・ジョセフさん(写真96)と親しくなった。彼は南カリブ海諸島最南端にあるトリニダード・トバゴ出身、エクスプローラー乗船5年目になるという。最初、皿洗いから出発し、サブ・ウエイターまで昇進した。6ヶ月働いて2ヶ月休む。故郷に奥さんと10歳の娘がいて、彼は娘を非常に可愛がっている。娘の教育費を稼ぐためにはどんな自己犠牲もいとわないという。

彼の給料は月に50$、後はお客からのチップである。よって、ウエイターにとってチップは死活問題である。驚いたことに、このチップを全く払わない客も多いと彼はいう。

「ゲストの中にはウエイターがチップで生活しているのを知らない人が多く、お礼だけ言って最終日にチップを払わない人がいます。」
「ダイニングテーブル15名くらい担当して5名くらいチップなしの場合もありますよ」
「天気が悪くてクルーズ気分が台無しになった時など、不満を私たちに向けたり、わざとチップを払わずに下船する人もいるんです」

我々日本人はチップの習慣がないので、外国航路のクルーズに乗船する場合、チップの取り扱いをしっかり確認しよう。(日本からツアーで参加する場合はツアー代金に含まれている場合も多い)

ある日の午後、ウインジャーマ・カフェの窓側で日記を書いていたら(写真97)、ある老夫婦が私に話しかけてきた。名前はスーラとギル、ロサンゼルス在住のアメリカ人である。日本に何回も訪問したことがあり、日本人の礼儀正しさや丁寧さを非常にほめていた。5年前に退職し今では年間4〜5回も客船に乗るクルーズ狂である。クルーズは安くて便利だという。

彼らからアメリカのクルーズについて有り余る生の情報を教わった。彼らは語る……

「お金がなくてもクルーズに乗っているアメリカ人はたくさんいるよ。クレジットカードでクルーズの予約をして、クルーズ終了後毎月返していけば問題ない」
「そういう人はこのクルーズの中にも20%くらいはいるんでは」

この話にはびっくりした。14万トン級の豪華客船、ニューヨーク発着の9泊10日のロングクルーズである。日本人の感覚からすると、かなりリッチな人かリタイヤした余裕のある人しか乗らない気がするが……。

クルーズが終了し、下船の順番待ちのため私はカフェ・プロムナードでコーヒーを飲んでいたら、突然、乗客の名前がアナウンスされた。もう既に下船が開始されてしまっているので、今頃、何の用なのかと不思議に思っていた。しかし、何人もの名前がしつっこく呼ばれるので、隣りに座っている中年の夫婦に聞いてみた。

「さっきから乗客の名前がアナウンスされていますが、何の用事なんですか?」
「あー、それは代金未払いでしょう。よくあることよ。」
と、その奥さんは平然と答えた。

クレジットカード登録をして乗船し、船内ではキャッシュレスで色々使うが残金不足が発覚したのではないか、という。興味が出てきたので人数を数えてみたら9名の客の名前が呼ばれていた。9組18名が代金未払いで船を去る?

お金のないクルーズ客の話とウエイターのクリントさんの話は一致する。基準のチップは1日あたり1人10$(1200円)程度、9泊10日のロングクルーズになれば夫婦で2万円を超える。毎月のカード返済に苦しむ人にとってはチップを払う余裕はない。彼らは確信犯?

豪華客船『飛鳥U』に乗り込むリッチで上品な日本人客にとっては信じられない光景なのでは?私は「何でもあり」「消費大国」アメリカ社会の一端を垣間見た気がした。


 
H クルーズで出会った人々
 

海外発のクルーズにおいて、やはり言葉の壁は大きい。初日のディナータイムはかなり苦しかった。ラージサイズのダイニングテーブルには8名の客が集い、華やかな夕食がはじまったのであるが、私以外全員アメリカ人だった。彼らは超スピードの英語で喋りまくり、私にはなかなか聞き取れない。とてもでないがこれから9日間も一緒にディナーを取る気になれない。そこで、ディナー終了後、私はメインダイニングのマネージャーにテーブルの移動を申し込んだ。

「インターナショナルなゲストが集うテーブルに変えてほしい」と

彼は私の申し出を快く聞き入れてくれ、翌日から国際派の集うテーブルに変えてくれた。さて、そのダイニングテーブルの人達は……。

@ ガリー&ダグマー夫妻
アメリカ人のガリー(夫)は航空関係の専門をしている公務員、ドイツ出身のダグマー(妻)は臨床微生物学専門のボストン大学の教授、ボストン近郊のマイホームに在住。
A バディム&オーガ夫妻
ロシア出身のバディム(夫)、ウクライナ出身のオーガ(妻)、二人ともコンピュータのプログラマーで、ニューヨーク在住。
B 正体不明の中年女性2名
1人はスウエーデン出身、もう1人はスイス出身らしい。
C 日本人ライターの私

席を変えてもらったのではあるが、やはり私には苦しいディナータイムが続いた。正体不明の2人とバディム夫妻はロシア語で話し、私は主にガリー夫妻とお喋りをした。もちろん全員で英語で会話をする機会も多かったが、私にはなかなか聞き取れない。私以外の人達は英語でコミュニケーションをしていた。私だけが落ちこぼれて、惨め……。でも、くやしかったので最終日まで同席した。

アメリカ発着のクルーズは無料の英会話学校である。
「ハロー」「どこから来たの?」と声をかければ誰でも親切に応えてくれる。何しろクルーズの客は暇を持て余しているし、見知らぬ人との出会いを待っている。また、船の従業員(クルー)達もお客との会話を楽しみにしている。

我々のダイニングテーブルのウエイターであるジャファー・ワルダーニさん(写真98)。チュニジア出身の彼は昼間はカフェ・プロムナードのスーパーバイザーをし、夜はメインダイニングで我々のテーブルを担当する。酒・たばこ・ギャンブルを一切やらず、一生懸命働いている。自分の生き方に強い自信を持っているようだった。
フォトグラフショップの店員のリッキー・ラチャマントー(写真99)さん。インドネシア、西ジャワ島出身で流暢な英語を喋る25歳の青年である。母国の大学を卒業して既に教師経験もあるが、現在はジャーナリズム専攻の大学在学中で、6ヶ月間クルーズに店員として乗船している。単位修得のレポートを書くための乗船である。レポートのタイトルは『海と写真』。単位修得後はオーストラリアの大学院でジャーナリズムの修士号を取りたいと言っている。前途有望な好青年である。こういう若者と話していると、実に楽しい。

クリス&ビッキー夫妻、ペンシルベニア在住のアメリカ人。エレベーター内で出会い、クリスがセレブリティのロゴ入りシャツを着ていたので私から話しかけた。セレブリティが一番気に入っているという彼らと気が合いそうだったので、ラウンジで2時間ばかりお喋りをした。彼らからクルーズ情報をたくさん得た。クリスは語る。

「船の中にある宝石店や土産物店などは、クルーズ会社がショップに場所を貸しているだけだよ。ショップの店員はクルーズ会社の人ではない。ただし、カジノ(写真100)だけはクルーズ会社直営。クルーズ会社は船の中心にカジノを作り、カジノを通らねば移動できないような構造にしているんだ。カジノはクルーズ会社のドル箱。カジノをするためにクルーズに乗る人もいる。アメリカでも多くの州でギャンブルは禁止されており、カジノを体験できるチャンスは少ない。クルーズ代金が安くても、ギャンブルで負けて、結局高くつくよ」

クリス&ビッキー夫妻とのお喋りを終えてエレベーターに乗ろうとすると、老夫婦の男性が私に話しかけてきた。

「あなたは昨日のアイスショーで隣りに座っていた人ですね。あの日本人スケーターの家族ですか?」「彼は素晴らしい。日本も素晴らしい」と言って去って行った。

日本を離れて気が付く日本や日本人の良さ。私にとって海外クルーズは日本再発見の旅でもある。考えてみれば、世界中の人が1つの客船に乗り、寝食を共にし、世界中を航海することなど世界が平和でなければ実現できない究極の遊びである。そういう意味で海外クルーズは世界平和の象徴である。


 
I まだ見ぬ日本人との偶然の出会い
 

5月17日(木)朝7時、エクスプローラーは最後の寄港地であるプエルトリコ(アメリカ領)のサン・ファン(写真101写真102)に到着した。

私はサン・ファン観光のバスツアーに参加した。まず、近代的なリゾートホテルが建ち並ぶニューサンファンへ、次に16世紀スペイン統治時代の雰囲気を残すオールドサンファンへ、そしてツアーのハイライトであるエル・モロ要塞(写真103写真104)で途中下車。その後、港(写真105写真106)に帰ってきた。オールドサンファンの道路は狭く、車の渋滞が多すぎる。これならツアーに参加せず自分で歩いて見て回った方が効率的である。

全く突然だった。このバスツアーで「まだ見ぬ唯一の日本人」に出会った。庄司美保子(22歳)さん、山形出身の可愛い女子学生である。嬉しくなったのでツアー終了後、客船にもどって彼女と一緒にランチを取った。

彼女は地元の高校卒業後カナダに語学留学し、現在はアルバータ州のエドモントにあるカレッジでトラベルコースのディプロマを修得中。学校主催のツアーに参加してクルーズに乗船しているという。日本にいる親は仕送りが大変なので早く卒業して日本に帰って就職してくれと言っているが、彼女はカナダに残りたい意向である。しかし、就職のめどはたっていない。将来に対して少し不安げである。

お互い久しぶりの日本人との出会い、溢れ出るように日本語が出てくる。ビュッフェレストランの窓側の席に座って、彼女の話をいっぱい聞いた。また、私も私の人生を語った。時間はあっという間に過ぎ、気が付けば夕方になっていた。

私の娘と同じくらいの年齢の日本人女性との間にロマンスは起こらない。彼女は既に日本人スケーターの中田さんと親しくなっていた。
やはり年の差は大きい。

日系アメリカ人小熊さんとの出会いも全く突然だった。新潟県出身の彼は35年前、会社の出張でアメリカに来て恋に落ち、そのまま結婚、以来ずっとアメリカのコネチカットで暮らしている。彼の最愛のアメリカ人奥さんも私の目の前にいる。ゆっくりコーヒーを飲みながら、幸せそうな二人の話を聞いていると日米を架ける若きラブストーリーがしのばれる。
太い木の幹に年輪が刻まれるように、人の人生にもその人の歴史が刻まれていく。クルーズで偶然出会った人々に、私はごく自然に相手の人生を問い、私の人生を語る。青い海を眺めているせいか、素直な気持ちになれる。クルーズは自分の人生を見つめ直す絶好の機会でもある。

最終日の朝、ビュフェレストランで再び庄司さんに会った。彼女の最後の言葉が印象的である。

「舟橋さんに出会えて本当に良かった」

 
     
J 一般情報
  ◎ バケーションズ・ツーゴー(英語)
http://www.vacationstogo.com/
世界中のクルーズ会社のクルーズ日程と価格が見れる。出航近くになるとラストミニッツオッファーとして激安価格も飛び出す。常時バーゲン価格のクルーズも掲示されている。55歳以上の価格、1人参加の大幅ディスカウント価格、その他、様々なクルーズ情報が載っている。このホームページを研究するだけで世界のクルーズについてかなりの知識が得られる。

◎ ヤフー・アメリカ(英語)
http://www.yahoo.com/
トップページから Travel→Cruises とクリックする。
探したいクルーズの「地域」「クルーズ会社」「旅行の年と月」「クルーズ日数」を入力すると、リアルタイムの価格付きで沢山のクルーズがリストアップされる。客室のグレードごとの値段も詳細に表示されるので値段もピンからキリまである。3泊から4泊の短期クルーズの場合、200$〜300$の価格もある。特に、クルーズの激戦地「カリブ海」は格安クルーズのオンパレードである。

◎ クルーズ・プラネット(日本語)
http://www.cruiseplanet.co.jp/
クルーズ・プラネットはH.I.S.のクルーズ専門セクションである。「地域で選ぶ」「船会社で選ぶ」「旅行タイプで選ぶ」「テーマで選ぶ」等、検索しやすく非常に充実したクルーズサイトである。近年の中高年のクルーズ人気を反映してか、添乗員付きクルーズツアーの種類が豊富になってきている。普通の海外旅行ツアーと同じ感覚で豪華な海外クルーズに参加できる。値段もそれ程高くなく添乗員付き格安海外クルーズもあるので、一度覗いてみるといい。

                                        (2007年7月 掲載)