11階のウインジャーマ・カフェのサブ・ウエイターのクリント・ジョセフさん(写真96)と親しくなった。彼は南カリブ海諸島最南端にあるトリニダード・トバゴ出身、エクスプローラー乗船5年目になるという。最初、皿洗いから出発し、サブ・ウエイターまで昇進した。6ヶ月働いて2ヶ月休む。故郷に奥さんと10歳の娘がいて、彼は娘を非常に可愛がっている。娘の教育費を稼ぐためにはどんな自己犠牲もいとわないという。
彼の給料は月に50$、後はお客からのチップである。よって、ウエイターにとってチップは死活問題である。驚いたことに、このチップを全く払わない客も多いと彼はいう。
「ゲストの中にはウエイターがチップで生活しているのを知らない人が多く、お礼だけ言って最終日にチップを払わない人がいます。」
「ダイニングテーブル15名くらい担当して5名くらいチップなしの場合もありますよ」
「天気が悪くてクルーズ気分が台無しになった時など、不満を私たちに向けたり、わざとチップを払わずに下船する人もいるんです」
我々日本人はチップの習慣がないので、外国航路のクルーズに乗船する場合、チップの取り扱いをしっかり確認しよう。(日本からツアーで参加する場合はツアー代金に含まれている場合も多い)
ある日の午後、ウインジャーマ・カフェの窓側で日記を書いていたら(写真97)、ある老夫婦が私に話しかけてきた。名前はスーラとギル、ロサンゼルス在住のアメリカ人である。日本に何回も訪問したことがあり、日本人の礼儀正しさや丁寧さを非常にほめていた。5年前に退職し今では年間4〜5回も客船に乗るクルーズ狂である。クルーズは安くて便利だという。
彼らからアメリカのクルーズについて有り余る生の情報を教わった。彼らは語る……
「お金がなくてもクルーズに乗っているアメリカ人はたくさんいるよ。クレジットカードでクルーズの予約をして、クルーズ終了後毎月返していけば問題ない」
「そういう人はこのクルーズの中にも20%くらいはいるんでは」
この話にはびっくりした。14万トン級の豪華客船、ニューヨーク発着の9泊10日のロングクルーズである。日本人の感覚からすると、かなりリッチな人かリタイヤした余裕のある人しか乗らない気がするが……。
クルーズが終了し、下船の順番待ちのため私はカフェ・プロムナードでコーヒーを飲んでいたら、突然、乗客の名前がアナウンスされた。もう既に下船が開始されてしまっているので、今頃、何の用なのかと不思議に思っていた。しかし、何人もの名前がしつっこく呼ばれるので、隣りに座っている中年の夫婦に聞いてみた。
「さっきから乗客の名前がアナウンスされていますが、何の用事なんですか?」
「あー、それは代金未払いでしょう。よくあることよ。」
と、その奥さんは平然と答えた。
クレジットカード登録をして乗船し、船内ではキャッシュレスで色々使うが残金不足が発覚したのではないか、という。興味が出てきたので人数を数えてみたら9名の客の名前が呼ばれていた。9組18名が代金未払いで船を去る?
お金のないクルーズ客の話とウエイターのクリントさんの話は一致する。基準のチップは1日あたり1人10$(1200円)程度、9泊10日のロングクルーズになれば夫婦で2万円を超える。毎月のカード返済に苦しむ人にとってはチップを払う余裕はない。彼らは確信犯?
豪華客船『飛鳥U』に乗り込むリッチで上品な日本人客にとっては信じられない光景なのでは?私は「何でもあり」「消費大国」アメリカ社会の一端を垣間見た気がした。
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