@ ドイツの特急列車ICE(フランクフルト→ウィーン)  
     
A 音楽の都から水の都へ(ウィーン→ヴェネツィア)  
     
B 北イタリアの中心、「ミラノ」へ(ヴェネツィア→ミラノ)  
     
C アルプスを越えて「ベルン」へ(ミラノ→ベルン)  
     
D 旅の終わりはもの哀しい(ベルン→フランクフルト)  
     
E ここでちょっと経済の話を‥‥  
     
F 一般情報  
     
  旅行時期:2009年10月21日〜11月2日
為替レート:1ユーロ=132円(2009年10月下旬のレート)
 
@ ドイツの特急列車ICE(フランクフルト→ウィーン)
  秋のヨーロッパ4カ国を妻と2人で国際特急列車(1等車)に乗ってのんびり鉄道旅行をしてきた。経路は「フランクフルト→ウィーン→ヴェネツィア→ミラノ→ベルン→フランクフルト」。11泊13日間のヨーロッパ旅行になった。飛行機はルフトハンザ航空(133800円)利用。鉄道はユーレイル・セレクト・セーバーパス(4カ国・5日間・1等車・1人45000円)利用。

2009年10月21日、日本(中部国際空港)からドイツ(フランクフルト)までのロングフライトの後、空港駅の切符売り場でフランクフルト中央駅までの切符(3.7ユーロ、488円)を購入。同時に、窓口でユーレイルパスのヴァリデーション(利用開始手続き)をしてもらう。これがないユーレイルパスが有効にならない。

フランクフルト空港駅からローカル線に乗ると列車は紅葉が綺麗な森の中を通っていく。森を抜けるとすぐにフランクフルト中央駅(写真1)に到着。所用時間約10分。大都会フランクフルトの郊外は深い森になっているのを実感する。

ヨーロッパの駅には改札がなく、誰でも自由に駅のホームまで入れる。よって、列車を降りたとたんに街の中に飛び込むことになる。ロングフライトと時差の関係で頭はボ〜としているが、ヨーロッパの駅の喧騒を目にすると、一気に気分が盛り上がってくる。中央駅正面(写真2)を出て、駅前の建物(写真3)をしばらく眺める。フランクフルトは戦災にあい歴史的建造物は少ないようである。

天気がいいので歩いて今夜のホテル「フランクフルトマリオット」(写真4)に移動する。フランクフルトマリオットは中央駅から徒歩圏内(約10分)で、見本市会場のメッセ塔(写真5)を目ざして行けば間違いない。重いスーツケースを引っ張りながらも心は軽い。

本日の部屋はリクエスト通り眺めの良い高層階(38階)だった。期待を込めて客室に入ると、マリオットらしい気品のあるベッド(写真6)やインテリアが出迎えてくれる。さらに、窓(写真7)のカーテンを開けるとフランクフルト市街(写真8)が一望でき、その素晴らしさにしばらく見とれる。ヨーロッパ旅行の最初のホテルとして申し分ない。妻も大満足である。

時差の関係で体内時計は深夜タイムなので現地時間の午後8時頃にはベッドに入って眠りに入る。寝心地満点!客室料金は189ユーロ(1室、税・サ込、約25000円)。寝るだけのホテルとしてはもったいないが、マリオットポイントを集めている私としては、値段と相談しながら可能な限りマリオット系列のホテルに泊まることにしている。

列車の旅では事前の計画が極めて大事である。私はドイツ鉄道のホームページ(一般情報参照)を利用してスムーズに4カ国を周遊できるように計画を立てた。さらに乗車予定の全ての列車の時刻表(出発駅、停車駅、到着駅)をプリントアウトして持参した。これが非常に役に立つ。


いよいよヨーロッパ国際特急列車の旅の開始である。10月22日、早朝5:30にホテルをチェックアウトしてフランクフルト中央駅に向かう。今日はフランクフルトからウィーンまで7時間の列車の旅である。

早朝の6時前から中央駅構内のショップ(写真9)はオープンしており飲み物や食べ物を調達できる。コーヒーショップ(写真10)には、おいしそうなサンドイッチ(写真11)が所狭しと並べられており、熱々の各種コーヒーも注文できる。これらを見ているだけでなんだか楽しくなってくる。「何を買おうか〜?」妻とあれこれ相談する。

食堂車や車内販売は値段が高いので駅で食べ物を買って車内に持ち込む乗客が多い。我々も軽い朝食として、売店でりんご、バナナ、コーヒーショップでサンドイッチ、カフェラテを買って車内に持ち込むことにする。

朝6:22出発のウィーン行きICE21号(写真12)が到着。これに乗ればウィーンまで直通で行ける。まさに国際特急列車である。早速、1等車に乗り込む。ただし、列車に乗る前にユーレイルパスに乗車月日をボールペンで記入しておく。これを忘れると無賃乗車と見なされる。

1等車の座席配置は横2−1の3席、2等車は横2−2の4席。ドイツ鉄道の列車は、ICEスプリンター、寝台車、クシェット(簡易寝台車)以外は座席予約の必要がないので便利である。ただし、座席を予約してもいい。座席は予約が入ったところから予約席になっていく。トップシーズンで必ず乗車する予定の列車の場合などは事前に予約しておいたほうがいいであろう。

1等車の座席には色々な種類がある。机付き2人席(写真13)、机付き対面1人席(写真14)、机なしの1人席や2人席(写真15)もある。予約席は座席の上部やコンパートメントの入口に予約区間が表示されているが、表示されている区間以外なら自由に座ってもいい。この客車はオープンサロンカーではあるが、コンパートメントの要素を取り入れた4人用個室もある。我々は迷わず個室(写真16)にする。ウィーンまでの7時間を優雅な個室で列車の旅ができる。これはいい。

国際特急列車だけあって、荷物置き場(写真17)が広くとってある。ここにスーツケースを置きチェーンで固定していく。これで荷物が盗まれる心配がない。列車が動きはじめてからテーブルを広げて、駅で買ってきた玉子サンドイッチ(2.5ユーロ、330円)とカフェラテ(2.7ユーロ、356円)で朝食にする。実にうまい。朝食後は肘掛にある音楽端子に持参のヘッドホーンを差し込んでクラシック音楽聞く。変わりゆくドイツの車窓を見ながらベートーベンのシンフォニーを聞く!これもドイツICE1等車の楽しみの1つである。

ヨーロッパの列車は発車のベルが鳴らない。よって、途中の駅で降りて写真を撮る場合はかなり緊張する。乗り遅れたら終わり‥‥。こんな時、座席にあらかじめ置いてある「Reiseplan」は非常に役に立つ。全ての停車駅の到着時刻と出発時刻、その他の情報が載っている。ドイツ語と英語表示。

10月下旬のヨーロッパの日の出は遅い。特に、今日は曇りのせいか午前10時頃になってようやく明るくなってきた。1等車のサービスとして、食堂車のメニューを自分の席で楽しむこともできる。時々、係員が回ってきて食事の注文を聞いてくる。ただし、「食堂車で車窓を眺めながら優雅に食事をする」これが、ヨーロッパ鉄道旅行の楽しみの1つである。日本でも昔は普通にあった特急列車の食堂車、ヨーロッパの鉄道にはまだ食堂車が残っている。

我々は11時頃にランチのために食堂車(写真18)に行く。座席数は1等車と同じ横2−1の3席のみなのでゆったりしている。車内は木目調のシンプルな内装で、赤い座席が車内を明るくしている。いい雰囲気である。時間が早いせいか、お客が少ないので広々とした4人がけの席に座る。さて、難題の料理の選択である。

ドイツ語と英語メニューから慎重に分かり易いものを選び「野菜、豆、ソーセージ入りシチュー、パン5種付き(9.9ユーロ、1300円)」「ミックスサラダ(6.9ユーロ、910円)」を注文する。これで2200円(写真19)もするのであるから、やはり食堂車は高い。ただし、量は結構ある。

少々割高であるが、窓辺に移りゆくドイツの風景を見ながら食堂車でランチ(写真20)をとるのは、鉄道旅行の醍醐味である。量が多いので欧米人の1人分の料理を妻と2人で食べる。気分も良く時間もたっぷりあるのでパンとカフェラテ(写真21:3.2ユーロ、422円)を追加注文して、食堂車のランチを楽しむ。

車窓からはドナウ川(写真22)が並行して流れているのが見える。そろそろオーストリアに近づいてきた。食堂車の車内(写真23)はいたってのんびりしている。満席になることもなく、一人旅の人が悠然とワインを飲みランチを楽しんでいる。食堂車の一角にビュッフェ(写真24)があり、ここでも軽食や飲み物の購入、または、立ちながら飲食もできる。窓が広くとってあるので外の眺めがいい。

ICE21号の1等車にある先頭車(写真25)。運転席のすぐ後ろに座席があり、ガラス張りの仕切りから列車の進行方向が良く見える。ただし、ヨーロッパの列車は時々進行方向が変わるので先頭車が最後尾車になる。列車はウイーン近郊に近づいてきた。ドイツのフランクフルトからオーストリアのウィーンまで、7時間にわたる国際特急列車の旅も終わりに近づく。そして、午後1時22分、ウィーン西駅(写真26)に到着。

早朝から列車に乗り込み、朝食を食べ、読書をし、音楽を聴き、そして、食堂車でランチを楽しむ。7時間という長い時間であったが、疲れも飽きもせず誠に快適な列車の旅ができた。ICE21号(写真27)に別れを告げ音楽の都ウィーン市内に入る。
(ウィーン:3泊)

 
     
A 音楽の都から水の都へ(ウィーン→ヴェネツィア)
  10月25日、日曜日の早朝、暗いうちにホテルをチェックアウトしてウィーン南駅に行く。ウィーン発ヴェネチィア行きの直通列車は1日1本しかなく、この早朝の列車(6時23分発)に乗り遅れると旅行全体が大きく崩れてしまう。この日はウィーンからヴェネツィアまでアルプス越えの景勝地を走る8時間の列車の旅である。

今日は天気が良さそうである。ホームに停車している国際特急列車EC31号(ユーロシティ:写真28)が輝いて見える。今日お世話になる食堂車(写真29)は既にライトアップされ準備完了。ウィーン出発と同時に食堂車はオープンするという。よって、「朝日を見ながら食堂車で朝食をとる」ことも可能である。なかなかのサービス、これは期待が持てる。とりあえず、駅で熱いコーヒーとドーナツを買って列車に乗り込む。

ドイツのICEは予約不要であるが、イタリア発着の国際特急列車は全席指定。よって、ユーロパスを持っていても指定券(1人9ユーロ、1188円:1等車)を購入しなければならない。

ヨーロッパの1等車の座席配置は2−1の横3席。このECにもオープンサロンタイプ(写真30)とコンパートメントタイプがある。1等車のコンパートメント(写真31)の座席は横2列のみで扉に「ビジネス」と書いてある。まさに、列車版ビジネスクラス。ただし、座席のリクライニングは他の1等車と同じであまり傾かない。

6時23分、列車は音もなく動き出し、すぐにウィーンの郊外に出る。しばらく走ると西の地平線から太陽が昇ってきた。まるで、今日一日の好天を約束してくれるよう‥‥。ラッキー!ウィーン郊外の住宅(写真32)が朝日に輝き、背後に雪を被った山が見える。この後、列車は山間部に入り「セメリンク峠」を登っていく。最初の景勝地!

朝の食堂車(写真33)に行ってみると既に大勢の乗客が朝食をとっている。ウィーンを出て1時間くらいでセメリンク峠にさしかかるので、美しい車窓を眺めながらの絶好の朝食タイムである。我々は自分の座席で朝食をとることにする。時々回ってくるウエイターに注文をすれば食堂車と同じメニューが自分の席で楽しめる。

「express Breakfast(写真34:7.5ユーロ、990円)」を注文。ロールパン2個、クロワッサン1個、ジャム、バター付、ハム、チーズ、そしてコーヒー。パンが暖かい。ロールパンを半分に切ってハムとチーズをはさんで食べる。うま〜い!列車はセメリンク峠にさしかかるとスピードを落としゆっくり登っていく。車窓には紅葉したカラマツや緑の針葉樹が走り去っていく。それらを見ながらパンを食べ、熱々のコーヒーを飲む。日本では体験できない優雅な朝食(写真35)である。

峠を過ぎると列車は再びスピードを上げオーストリアの丘陵地帯を走っていく。参考までに、セメリンク峠周辺には石造りの鉄道橋が沢山あり、周囲の風景に溶け込んだ「石橋などの鉄道施設」が世界遺産に登録されている。残念ながら列車の中からは石橋のごく一部しか見えない。

スイスアルプスはオーストリアアルプスに続いている。時折、車窓には雪を頂いた山々(写真36)が見える。ウィーンからヴェネチィアまで8時間もあるので、読書と仮眠でもしてのんびり過ごそうと思ったが、誤算だった。天気が良く綺麗な風景(写真37)が次々に現れるので、その都度、カメラを構える。特急列車はスピードアップして山間の村々(写真38)を走り抜ける。よって、ピンボケしないようにシャッターを押すのは難しい。失敗写真の山ができ、即、消去する。それにもめげずに撮る。撮る。撮る。

妻が座席で居眠りをはじめたので、気分転換に食堂車(写真39)へ1人で行く。食堂車は朝食タイムの込み合いはなく、のんびりムードである。メニューを見てみると値段はそれ程高くないようである。コーヒーの「メランジェ」(写真40:2.5ユーロ、330円)を注文し、食堂車全体の雰囲気を楽しみながらコーヒーを味わう。

時間はたっぷりある。飛行機を使えば1〜2時間のところを8時間もの時間をかけて列車の旅をする。急ぎ過ぎた人生にブレーキをかけて時間を無駄に過ごす。そして、車窓からの美しい風景(写真41)を眺めながらが「今」をゆっくり楽しむ。長距離列車の醍醐味の1つである。2等車のコンパートメント(写真42)を見学して席にもどる。

私も自分の座席に帰り、うとうとしていたら、再び雪に覆われた山脈が目の前に現れてきた。これからオーストリア・イタリア国境の山岳地帯に入る。10時23分、列車はクラーゲンフルトに到着。ウィーンを出発して約4時間、ヴェネチィアまでの中間点である。10時47分、オーストリア側最後の駅「フィラッハ」(写真43)着。いよいよ国境越え、富士山に似た高い山(写真44)が見えてくる。トリグラフ山(2864m)か?絶景のアルプス越えを期待していたが、残念ながらトンネルが多い。

朝食が早かったのでそろそろお腹が減ってきた。国境越えの途中、11時過ぎに妻と食堂車に行く。ランチ前の時間のためか食堂車は空席が多く、好きな場所に座る。写真入りのメニューは実にありがたい。ドイツ語の下に英語表記もある。写真と英語メニューを照らし合わせ、本日のランチメニューを選ぶ。

しかしながら、グルメ派ではなく健康志向の我々夫婦の選ぶメニュー(写真45)はいつも陳腐である。カボチャのスープ(3.6ユーロ)、レタス・トマトサラダ(3.0ユーロ)スパゲッティ・トマト風味(8.5ユーロ)ロールパン2個(1.6ユーロ)。一皿の量が多いので2人でシェアして食べればちょうどいい量である。綺麗な景色を見ながら妻と一緒に食べる食堂車のランチ(写真46)は格別である。どの料理もおいしく、全部食べた。デザート(写真47)にアップルパイ(3.6ユーロ)とメランジェ(2.5ユーロ)を追加注文して本日のランチは合計25.3ユーロ(3340円)となった。

11時21分、イタリア側の最初の駅「Tarvisio Boscoverde」に到着。国境を越えた。食事中、隣の席の中年男性(南アフリカ出身)2人組と話しはじめた。オーストリアの小さな村をまわってイタリアに入る途中だという。オーストリアの小さな村の美しさを盛んに主張している。南アフリカでは広大な農場を所有し、自宅の近くには「ぞう、キリン、ライオン」が普通にいるという。(動物園ではない)

車窓にはアルプスの雪解け水の流れ(写真48)が見える。アルプスを越えると、列車は北イタリアのジュリア州の平野(写真49)に入る。心もち太陽の光が強くなってきた気がする。12時14分「ウディネ」着、12時52分「ポルデノーネ」着、13時22分「コネリアーノ」着。ここまでアルプス山脈に沿って列車は走るので眺めがいい。この山並みを西にたどれば、アルピニストの血が踊る「ドロミテ山脈」に至る。

コネリアーノから列車は南下し、一路、ヴェネチィアに向かう。長距離列車の旅も終盤に近い。14時09分、ヴェネチィア・メストレ着。ここで大勢の客が乗ってくる。今日は日曜日、メストレ在住の人や他の場所からヴェネチィアに遊びに来る。

メストレを出ると、列車はいきなりラグーナ(潟:写真50)に架かる長い橋の上を走る。一気に気分が盛り上がってくる。見上げれば快晴!海も光り輝いている。ヴェネチィア訪問の最高のプレゼントである。そして、14時20分、列車はヴェネチィア・サンタ・ルチア駅(写真51)に到着。8時間にわたる列車の旅が終了した。

私は今回のヨーロッパ国際特急列車の旅で、5回鉄道を利用したが、ウィーン→ヴェネチィアが一番良かった。1等車の座席、食堂車の雰囲気、車窓の風景、サービス全般、いずれも良く、8時間にわたる長時間の旅を退屈することなく過ごすことができた。
(ヴェネツィア:2泊)

 
     
B 北イタリアの中心、「ミラノ」へ(ヴェネツィア→ミラノ)
  ヴェネツィア⇔ミラノ間の鉄道はイタリアでもメインルートなので1日に何本もの特急列車が走っている。よって、当日の天気、気分によって旅行日程を変えてもいい。ミラノまでの所要時間は2時間35分。残念ながら食堂車、ビュッフェ車両共になし。

朝のヴェネツィア「サンタ・ルチア駅」(写真52)。天気がいいので午前中もたっぷり市内観光をして13時50分発のユーロスターに乗ることにする。ユーロスター・イタリア(写真53)は全席指定なので、ユーロパスホルダーも座席指定券(1人10ユーロ:1320円)が必要である。サンタ・ルチア駅の窓口に行き(英語が通じない可能性があったので)乗車予定の列車の「出発時刻、行き先、1等車、2名」と書いた紙を見せて購入する。特に問題なし。

ヴェネツィア観光に忙しく、まだ昼食を食べていない。食堂車がないので、駅でサンドイッチ、バナナ、りんご、水、コーヒーを調達して列車に乗り込む。エスプレッソ(0.9ユーロ、119円)カフェオーレ(1.5ユーロ、198円)駅構内のカフェは庶民の味方である。
ユーロスター1等車の車内(写真54)は綺麗でゆとりがある。10月下旬の火曜日の午後、お客が少なく自由気ままに過ごせる。テーブル席(写真55)に座り、駅で購入した食材をテーブルに広げる。そして、発車と同時にランチタイムにする。お腹がすいているので何を食べてもおいしい。

1等車の1人がけのテーブル席(写真56)も余裕がある。この席に陣取ってヨーロッパ国際特急列車による一人旅なんてのは、いかが?参考までに2等車の車内(写真57)を見学に行く。こちらも悪くない。特に、テーブルのある席に座れば1等車とあまり遜色はない。大柄な西欧人と違って小柄な日本人にとっては十分余裕のある2等車の座席である。

発車のベルもなく列車は静かにサンタ・ルチア駅を出発し、ラグーン(写真58)を渡る。さらば、ヴェネツィア!また来るぞ‥‥。このようにして、私の愛する世界の都市は限りなく増えていく。お金と健康が続く限り、世界を旅したい!

14:02ヴェネツィア・メストレ着。多少乗客が乗り込む。14:19パドヴァ(写真59)着。パドヴァはパナダ平野の中に位置する芸術都市という。15:02ヴェローナ(写真60)着。シェークスピアの名作「ロメオとジュリエット」の舞台がここヴェローナ。ロマンティックな恋物語に興味がある人は途中下車して、「ツタのからまる13世紀のジュリエットの家」を訪問して愛を探してみては?私はパス。

車窓の風景は面白みに欠ける。ウィーンからヴェネツィアまでの列車の旅が素晴らしかったので、ヴェネツィア→ミラノ間の落差が大きい。唯一、風光明媚だったのはヴェローナを過ぎて「ガルダ湖」の辺り(写真61)を走った時だけである。それ以後はつまらなくなりお昼ねタイムになる。

16時25分、ミラノ中央駅(写真62)に到着。2時間35分の列車の旅はあっけなく終わった。この路線は全く印象に残らず、つまらない。せめて食堂車かビュッフェでもあれば変化があったと思うのであるが‥‥。

ミラノ中央駅には驚きが2つあった。1つは駅舎の壮大さ、豪華さ(写真63)である。まるで、宮殿か博物館・美術館の雰囲気(写真64)なので、一見の価値がある。もう1つの驚きは、これだけ大きな駅で門構えもしっかりしておりながら、カフェ、レストラン、売店、ショップ等がほとんど見当たらないことである。駅の隅っこにスーパーが1軒入っている程度である。

ミラノ中央駅(写真65)は、ローマ・テルミニ駅に次いでイタリアで2番目の乗降客数(1日約32万人)を誇る。ヨーロッパの鉄道駅としても主要な駅の一つ。外観はすごいがやや拍子抜けの巨大駅である。

 
     
C アルプスを越えて「ベルン」へ(ミラノ→ベルン)
  この日はミラノ中央駅11時20発の国際特急列車「チザルピーノ」に乗車し、スイスの首都ベルンに行く。白い車体にブルーのラインが目立つチザルピーノは最高時速200km/h、アルプスの山々と湖を左右に見ながらスピーディーに走行する。

今日も天気がいいので、アルプス越えの列車の旅は期待ができそうである。スーツケースを引っ張って、午前10:30頃にはミラノ中央駅に行く。チザルピーノも全席指定なので乗車前に指定券を購入しなければならない。チケット売り場に行くと長蛇の列(写真66)、これには驚いた。幸いカウンターが沢山あり、15分程度の待ち時間で指定券(1人10ユーロ、1320円)が購入できた。

ミラノ中央駅は国内外へ向かうほとんどすべての列車が発着する。よって、駅構内(写真67)も広くホームは24番線まである。どのホームに行けばいいのか?ここで時間がないと焦る‥‥。まずは駅中央の壁にある電光掲示板で、乗車予定の列車番号、出発時刻、行き先、途中停車駅、ホーム番号を探す。そして、指定されたホームに行き、再度、ホームにある掲示板で確認すればいい。

いよいよチザルピーノ(写真68)に乗り込む。数年前の秋、私は1人でチザルピーノに乗り、スイス(バーゼル)からイタリア(ミラノ)に旅した。今回は逆コースである。1等車の車内(写真69)はクリーンで明るい。座席幅の余裕もあるので快適な列車の旅が出来そうである。今回もテーブル席(写真70)を妻と2人で独占して優雅な車窓の旅をする。

座席の座り心地は今までで一番いい。ただし、相変わらずリクライニングはたいしたことはない。ヨーロッパの鉄道の1等車の座席は横幅も足下も広くて余裕があるが、座席のリクライニングがたいしたことないので残念である。1人がけテーブル席(写真71)、ここに座ってスイスアルプス1人旅なんてのは如何?ヨーロッパの鉄道の旅は便利で快適でしかも正確、個人旅行に最適な移動手段である。

お昼近くになったので食堂車(写真72)に行く。車内は明るくいい感じなのであるが、窓が小さいのが残念である。食堂車の必須条件はパノラマウインドーにあり!妻は疲れて自分の席で休養・仮眠中なので、今回は1人で食事(写真73)をすることにする。テーブルのワインは注文したわけではなく、はじめから置いてある。イタリア人にとってワインは水みたいなものなのか…。

飲み物はアップルジュース(2.5ユーロ)、メイン料理(写真74)にサーモン・ファンタジア(15.5ユーロ)、付け合せに温野菜(4ユーロ)を注文する。ミラノを出発した列車は最初の景勝地「マッジョーレ湖」(写真75)にさしかかる。車窓に移りゆく美しい風景を眺めながら食堂車でランチをとる。列車の旅の醍醐味、妻がいなくても楽しい!

列車は山岳地帯(写真76)にさしかかりトンネルに入る。トンネルに入ると食堂車の雰囲気がアダルトムード(写真77)になる。これもまたいい。トンネルを抜けると再び湖。アルプス越えの特急列車は車窓から目が離せない。

食事の方は、温野菜がいまいちの味であったが、メインのサーモンはおいしくて全部食べた。締めはカフェ・ラテ(2.6ユーロ)、以上、合計24.6ユーロ(3247円)食堂車と言えどもこの程度の食事で3000円以上もするとは‥‥。高い!

12時48分、イタリア側最後の駅「ドモドッソラ、Domodossola」着(写真78)。これから国境を越える。列車は川(写真79)を越え、アルプスの深い谷(写真80)を過ぎて、13時20分、スイス側最初の駅「ブリーク、Brig」(写真81)に到着。列車から降りてスイスの新鮮な空気を吸う。しかし、すぐに列車にもどる。乗り遅れたら大変だ。この駅はマッターホルンの麓の「ツェルマット」から「アンデルマット」「クール」へと走る氷河急行の中継駅である。

ブリークを出ると、列車はしばらくローヌ川沿いに走る。遠くに雪を頂いた高峰(写真82)が見えるが、ここはアイガー、メンヒ、ユングフラウ等ベルナー・オーバーランドの山々の南側になる。氷河が削り取った後だろうか、山の斜面が深く切れている。

13時28分、列車は「フィスプ、Visp」(写真83)に到着。氷河急行はここからツェルマットに向け登っていく。我々の列車は北に方向を変え、ベルナー・オーバーランドの西方の山々を乗り越えてスイスアルプスの核心地帯に入る。ただ、本当の山岳地帯はトンネルで抜けてしまい、誠にあっけない。

スイスアルプスの絶景を鉄道で味わいたければ「氷河急行」に乗る必要がある。(注:私は未体験)氷河急行に負けるとも劣らないスイスの絶景鉄道が「ベルニナ急行」である。イタリアのティラノからスイスのサンモリッツまで感動の連続の旅が楽しめる。その時の私の旅行記がフォートラベルの下記のページに載っているので、興味のある方はご覧頂きたい。
http://4travel.jp/traveler/funasan/album/10138130/

山の斜面(写真84)は緑の牧草地で埋め尽くされ、牛が草を食む。スイスは何処を見ても美しい。突然、車窓から青い空を悠然と飛ぶパラグライダー(写真85)を見つけた。夢中でカメラのシャッターを押す。アルプス越えのトンネルをいくつも通り抜けると大きな湖「トゥーン湖」(写真86)に出る。13時54分、「シュピーツ、Spiez」に到着。多くのスイスアルプス登山者・観光客はここで列車を乗り換えて「インターラーケン」「グリンデルワルド」そして「ユングフラウヨッホ」を目指す。

列車はしばらくトゥーン湖を右に見ながら湖畔の景勝地を走っていく。遠くにアイガーらしい切り立ったが白銀の山々(写真87)が見える。シュピーツから次の停車駅トゥーンまでわずか10分足らずであるが、車窓から目を離せない。次々に美しい風景が現れてくる。ベルナー・オーバーランドには4000m級の山々が沢山あり、そこに降り積もった氷河の雪解け水がトゥーン湖に流れてくるのである。

14時04分、「トゥーン、Thun」(写真88)着。急いでホームに降りてアルプスの空気を胸いっぱいに吸い込む。トゥーンは白銀の山々を望む湖畔のリゾート。石畳の細い坂道や教会があり、その背後にトゥーン湖とベルナー・オーバーランドの山々が華を添える。

トゥーンを過ぎると列車はアルプスの山々から遠ざかり、スイスの首都「ベルン」に向かう。トゥーン出発からわずか17分後の14時23分、ベルン(写真89)に到着。このようにして、アルプス越え特急列車の旅が終了した。誠に快適、風光明媚、お勧めのルートである。
(ベルン:2泊)

 
D 旅の終わりはもの哀しい(ベルン→フランクフルト)
  10月31日(土)ベルンに別れを告げフランクフルトに向かう。ヨーロッパ(4カ国)国際特急列車の旅もいよいよ最後、なんだか少し寂しくなってきた。旅の終わりはいつも、もの哀しい。

ベルン⇔フランクフルトはスイスとドイツの主要都市を結ぶ幹線路線なので、ほぼ1時間に1本の特急列車が走っている。ただし、直通列車は2時間に1本程度で、残りはスイスのバーゼルで乗り換えとなる。当初の予定は11:04発のICEに乗るつもりであったが、夫婦ともどもベルンが気に入り、午後3時過ぎまでベルン観光を楽しんだ。結局、ベルン発16:04のICE1等車(写真90)に乗車する。フランクフルト到着予定は19:53。3時間49分の列車の旅である。

ドイツのICEは座席指定券なしでも乗車できるので便利である。広々とした4人用テーブル席(写真91)を妻と2人で使う。誠に快適。2人用のテーブル席(写真92)も広々としてる。以前、私はフランクフルトからインターラーケンまでICEに乗って1人旅をしたことがある。今回はその逆である。

車窓を眺めながら、「今度は再びヨーロッパ1人旅でもしてみるか?」と思い、地図(写真93)を広げてルートを検討しはじめる。もちろん、妻には内緒で‥‥。心の中は誰にも読めない。

フランクフルトを起点にベルリン→プラハ→ウィーン→ブタペスト、華麗なるハプスブルク家が支配した中欧ヨーロッパがいい。そして、ベルリンではベルリン・フィルの演奏会とベルリン国立歌劇場のオペラ、プラハではチェコ・フィルの演奏会、ウィーンではウィーン交響楽団の演奏会とウィーン国立歌劇場でのオペラ、そして、ブタペストではハンガリー国立フィルの演奏会‥‥。各都市に3泊くらいして全体で2週間くらいの日程で……。

何だか楽しくなってきた。地図を見ながらニヤニヤしていると、
妻「何か面白いことでもあるの?」
私「いや、何も…」

妻との旅行はもちろん楽しい。しかし、1人旅には孤独なロマンがあり、海外に1人で旅立つと「青年は荒野を目指す」(五木寛之)気分になる。熟年の私(現在58才)が若者になれる瞬間、それが海外1人旅である。果てしなき未知の国を求めて私は行く。許せ、妻よ!(許して下さい、奥様)

ヨーロッパのオペラやコンサートの本格的なシーズンは寒い冬場(11月〜3月)である。この時期のヨーロッパは航空運賃もホテル代金も格安になる。また、オペラ・コンサートもネット予約すれば手数料なしで現地価格で購入できる。よって「安くて豪華なヨーロッパ・オペラ・コンサート旅行」が実現できそうである。

暇なので車内見学に出かける。ICEにはコンパートメント(写真94)もある。写真の肘掛を上にあげれば大人1人が完全に寝れるので、空いていれば個室ベッドになる。食堂車の隣にあるビュッフェとラウンジ(写真95)。実にいい感じ……。やはり長距離の列車の旅にはこのような余裕(遊び)空間が必要である。

ICEはドイツに入るとライン川と黒い森の間の丘陵地帯を北上し、フライブルク(17:49着)、バーデン・バーデン(18:31着)、カールスルーエ(18:51着)と北上する。バーデン・バーデンはヨーロッパでは有名な高級温泉保養地。1週間くらい滞在して温泉三昧をしてみたいものである。

お腹が減ってきたので妻と一緒に食堂車(写真96)に行く。夕食時間にもかかわらず食堂車はがら〜んとしている。食堂車での最後の晩餐、と言っても、我々のメニューはいつもシンプルかつ少量である。1人分のコース料理を2人で食べる。

ドリンクは「500mlボトルの水」(3ユーロ、396円)、前菜(写真97)は「ラージ・ミックスサラダ、パン付き」(6.9ユーロ、910円)。サラダもパンも結構うまい。合格!メイン料理(写真98)は「Chicken fricassee with mushrooms and rice」(9.2ユーロ、1214円)これもGood。デザートはセットで「マフィン・チョコレートとカプチーノ」(4.2ユーロ、554円)かなり甘いマフィンであるが、ほろ苦いコーヒーと一緒に食べればおいしい。合計23.3ユーロ(3076円)。中身、価格、共に満足いく夕食であった。

食堂車で夕食をとっている間に外はすっかり暗くなった。列車はマンハイム(19:14着)を過ぎ、フランクフルトに向かっている。驚いたことに我々の客車には他の乗客は誰もいなくなった。我々夫婦の専用客車!よって、妻は座席に体を横たえて食後の眠りに入る。しかし、私は眠れない。このICEはフランクフルトが終着駅ではない。フランクフルトで5分ばかり停車して、さらにドイツを北上する。終着駅はドイツの北の果て、北海に近いハンブルク(23:59着)である。目覚めたらハンブルク、なんてことになったら日本に帰れない。

19:53、ICEはフランクフルト中央駅(写真99)に到着。重いスーツケースを引っ張ってホームを歩く。足取りが重い。眠気か?疲れか?それとも旅の終わりの心の重さか?フランクフルト中央駅には沢山のICEが停車(写真100)している。ホーム右のICEは20:13発ベルリン行き、左は20:18発ミュンヘン行きである。下車したばかりなのであるが、列車を見るとまた乗りたくなる。鉄道の旅は夢を誘う。

 
E ここでちょっと経済の話を‥‥
  フランクフルトを起点にヨーロッパを回ってきたが、2009年10月下旬の為替レート(1ユーロ=132円)で換算するとヨーロッパの物価は高い気がする。もともとヨーロッパはインフレ圧力が強く、ユーロ導入によって物価上昇がさらに加速した。一方、日本はバブル崩壊以降低成長・低金利時代になり、さらに2000年以降、世界的にも異常な「ゼロ金利・デフレ時代」が続いている。

よって、世界的に物価が高い日本という過去のイメージは既に崩壊し、今や日・欧の物価水準は逆転したような気がする。私の直感であるが1ユーロ=100円程度の為替レートでちょうど日・欧の物価が均衡するのでは?

ドル・円相場にしてもしかり。2009年11月下旬1ドル=85円くらいまで円高に振れたが、1990年代の85円と今の85円では、まるでパワー(対外購買力)が違う。物価が高かった1990年代初期に日本円を1ドル85円で換算して、物価の安いアメリカで使えば、凄い購買力があった。円のスーパーパワー、アメリカで豪遊できる。
さらに1990年代のアジア諸国に目を向ければ、日本円のスーパーパワーぶりは一層際立った。高物価の日本で貯金して、物価の安いアジアで使えば、それこそ貴族の生活が出来た。しかし、それも今は昔、日本が長らく停滞している間に、アジアは猛スピードで日本を追いかけ、欧米は日本の先を行く。為替レートで余程円高にならないと、日本円の対外購買力は(毎年インフレの差だけ)どんどん落ちていく。

1ドル=120円、1ユーロ=160円という数年前の円安レートになると欧米の海外旅行がどんどん高くなる。ここに資源価格・原油価格の高騰が再び襲ってきたらアウト!燃油サーチャージだけで5万円?。さらなる円安になればヨーロッパ《格安》ツアーが50〜60万円?庶民にとって「ヨーロッパは遠くにありて思うもの」となる。
これは日本が先進国から途上国へ転落していく兆候なのでは?考え過ぎか?(先進国の国民は気楽に世界旅行をするが、途上国の人は金持ちしか先進国に行けない)

参考:為替レートや資産運用に興味のある方は、私のホームページ内「資産運用法」をご覧下さい。

 
     
F 一般情報
 
◎ユーレイルパスのホームページ(英語版)
http://www.eurail.com/
【ユーレイルパスの料金検索方法】
例:「ドイツ、オーストリア、イタリア、スイス」の4カ国周遊、
  期間中に5日間列車に乗車する場合
Passes→Eurail Select Pass→4 Countries→Youth又はAdalt 又は Saver→5 days within 2 months

◎ユーレイルパスのホームページ(日本語)
http://www.raileurope-japan.com/
【ユーレイルパスの料金検索方法】
例:「ドイツ、オーストリア、イタリア、スイス」の4カ国周遊、
   期間中に5日間列車に乗車する場合

1旅行したい国に上記4カ国を入力し「パスを検索」をクリック
2鉄道利用日数(合計5日間)、滞在日数、旅行者の年齢を入力し「パスを検索」をクリック
3 Eurail Select Pass 4 countries (通常パス) 1 大人 5 日間 2 ヶ月
\47,200 (1等車)が出てくる。

◎ドイツ鉄道のホームページ(英語版)
http://www.bahn.de/i/view/overseas/en/index.shtml

【時刻表の検索方法】
例:フランクフルト発ウイーン行き、2010年5月1日、午前10時

1出発駅「station/stop…」にFrankfurt(Main)Hbf(フランクフルト中央駅)到着駅「…station/stop」にWien Westbahnhof(ウイーン西駅)を入力。日付選択又は入力(01.05.10)時刻入力(10:00)Searchクリック。
2下段Outward journey の Refreshをクリック。
3希望の列車を1つ選びクリック
4Show intermediate stop をクリック
フランクフルトからウイーンまでの全ての停車駅、停車時刻、食堂車(Bordrestaurant)の有無、等が分かる。

                                        (2010年4月 掲載)